蜜柑狩 '13ナミ誕
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    空と海の狭間で-1

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/06(金)
    今日も雲一つ無い晴天だ。日差しの強さは汗になり、足下の影がもう色濃い。
    商店街の店先でラジオから流れる人気DJの語りは飄々としながらも爽やかに耳に流れ込む。
    「夏だ。さぁ出かけよう。新しい出会いを求めて。」


    一つの出会いで変わることもある
    出会いとは偶然でも必然でもなく日常に見られるのにどれも同じでは有り得ない。

    僕たちは出会った。あの青い空と青い海の狭間で。









    【空と海の狭間で】








    汗がだらだら首の周りを流れていく。足許の影は強くて濃くて頭を上げると帽子の向こうに果てまで真っ青な空に一つ浮かんだ真っ白い雲。太陽の光は肌にちりちり痛くて空を見上げると目をしっかりあけられない。地面は熱い。犬のように舌を出して歩くとかえって足下から口の中にもわっと熱い空気が入ってくる。
    もうとっくに蝉が幾重にも鳴き始めている。ジージーという夏の始まりを告げる強い合唱だ。

    強くて熱い、夏が来た。







    学校の裏山を住処とする蝉の声が校庭に響きはじめた。夏の訪れを確実に告げるその声の中、教室には山から吹き下ろされるやや涼を含んだ風が通り抜け教室に溢れる興奮と熱を少し戸外に運び去る。運び去られたその先から子供の声と熱気が沸き上がる。夏がここから来るみたいだ。

    「えー明日から夏休みです。4年生という学年も今日で終わり、次に皆さんの顔を見るときには5年生、上級生になるわけです。皆さん、先生との約束を守って、新学期には無事、同じ元気な顔を見せて下さい。
    そして心に残る、すばらしい、夏休みを過ごしてください。」


    汗っかきの先生のおきまりの挨拶で締めくくられた終業式は終わった。次に来る9月が年度のスタートになる。だがクラスとの別れの感傷よりも続く長い休暇の方がもっと大切だ。皆それぞれの計画がある。期待や驚きに満ちた通信簿をそれぞれ自分のバックに仕舞う子供達の口元には同じような笑みが広がっている。公立のこの学校では制服はなくランドセルにもそう五月蠅い規程はないので、もうすぐ5年生ともなれば皆思い思いの鞄を肩から提げている。
    「ビ~ビ、帰ろ。」
    「ナミさん!・・どうだった?」
    「バイバーーイ ナミ、ビビ。新学期に会おうね!!」
    仲良しの二人に声を掛けながらが木目の廊下を走ってゆく彼女はこの二ヶ月を父親の居る外国に向かうのでむこうで家族揃って過ごす予定だという。

    「当然v余裕よ余裕。けど、図工の“がんばりましょう”はないと思うんだけどなぁ。」
    「いいなぁ。」
    背の高い蜜柑色のナミの余裕の三本指は学年で三番だったと言うことだ。

    彼女の図工はといえば、模写だけは正確なナミの絵画の芸術センスに関してはなかなか説明しにくいところがあった。先生が“もっとがんばり・・”にしなかったのは成績から来る温情ではないかと思うビビは高く束ねた長い水色の髪を揺らしながらくすくすと微笑んだ。

    「なにがいいなぁよ。あんたの方が成績良いじゃない。今回も又TOPでしょ?」
    「う・・実は今回は2番に落ちてるの。」

    ビビは知っている。
    おそらくはナミの頭の回転はクラス一だ。成績とて本来一番だろう。それだけ頭の良い彼女ではあるが、学習時間に正比例する緻密な問題には少し弱い。問題は軽く解いてしまっているのにどうしてそんなところで間違うのかというような単純な足し算などで間違えていたりする。
    くだらないところで点を取られて成績には結びつかないタイプだが彼女自身この若い身空で『最低限の時間でギリギリの成績を』をモットーにして居ることを全く恥じる気もないようであるし、実際他にやりたいことが一杯なのと言う言葉に恥じない生活っぷりである。

    「塾だって行くだけじゃとれないでしょ。」
    「そうかなぁ?」
    「けど・・・二人とも3番以内。これで予定通りね。」
    「もちろんv」
    くすくすと笑顔で返しながら鞄を肩に掛けて階段を下りる。
    蜜柑色の髪の少女が水色の髪の少女と歩く姿はどちらもきびきびしていて気持ちよい。

    ビビもナミと同じく片親しかいない。だが親が裕福で多忙なために、かわりに家庭教師と家政婦が付いている。
    この節片親が珍しいわけでもないし、育った境遇が似ているわけでもない。だが二人は転校してきたビビと会ったその時から「何となく」うまがあった。


    下足箱はちょうど多くのクラスから子供達が飛び出してきた所で賑わっていた。皆それぞれに明日からの通常とは違う日々に心奪われ玄関からも全身に笑みを貼り付けて駆け抜けていく。外の日差しはぎらぎらと照りつけてもう少しで咲きそうな玄関に並んだのひまわりの鉢も黄色の色をほころばせている。


    普段なら並んで話ながら靴を履き替える二人の姿に見惚れる者も多いが誰も声は掛けられない。ナミは二年の時ちょっかいを掛けてきた六年生を一言で絶対零度まで撃退したと言う伝説の持ち主だし、出戻り転校生だったビビには幼馴染みの一年上のコーザが睨みをきかせているからだ。男子生徒のあこがれを一心に受けながらもその想いは二人ともに全く届かずいつも遠巻きに見られるだけだった。

    「例の計画、お父さんは本当に大丈夫?」
    「パパは今夜だけうちに泊まって明日朝から海外に出張だし、明日からナミさんのおうちにってちゃんと納得してるわ。ノジコさんの電話のおかげよ。」
    「忘れもの、ない?日焼け止めに着替えに・・。」
    「・・ナミさんは遊びに行くんだもんね。」
    「あんたが言い出しっぺでしょ。」
    「お願いだから一人にしないでね。」
    「どうしようかなぁ。」
    「あ、ひどい!」
    笑い声が蝉の声と響き渡る。
    二人は明後日からキャンプに出かける。




    ******



    四年生以上の子供対象の三泊四日南の島でのキャンプ計画。その企画の名は「グランドライン」
    この地方の高名な小児科医ゴール・D・ロジャーの提唱により始まったそれは病児のリハビリを兼ねたキャンプで、スタッフに医療関係者や学生のボランティアを集めた歴史ある企画である。通常のキャンプ参加には健康に不安が残る程度まで回復した子供を親の手から預かり、子供だけで南の島で過ごす事により小児の健全な育成を促す事を目的とし、各病院や学校との連携と彼の私財を元にした基金の寄付により行われている。

    幾度か行われたそのキャンプの効果は地味にではあるが成功を収めている。
    言語障害を持つ子供がキャンプでいるかとのふれあいによって言葉を発したとか、車椅子の少年が歩いたとかがホームページで飾られて、世間の評価も上々だ。
    ロジャーが引退した次にはニューゲイトなどこれも高名な教育家が理事となり、医療畑以外の方面からの尽力によりキャンプの方向性は広がっていた。最初は障害の強い病児の為の物であったそれが病児の定義を広げ、参加者の資格はかなり広くにわたっている。
    最近ではPTSDの一見健康な子供も範囲に含むために一般児童の参加も可能になっている。だが、病児のペースを優先としているのが前提なので、全体を通しての行事は明らかに他の企画に比べると少なくゆっくりとしたペースだ。だから、一般の小学生の参加はそう多くない。病児の場合、担当医師との綿密な打ち合わせがあり医師の意見が優先されるので、なかなか参加を認められない子供もいたりするのが皮肉なことである。
    今では夏の一シーズン中に組み合わせを考えられて何度か行われる事になっている。その甲斐あって、多くの子供がこの企画に参加し、沢山の笑顔を残していっている。



    「今回はこいつも入れてくれませんか?」
    「お前枠?しょうがないなお前の頼みとあっちゃ聞くかねぇ訳にいかねぇか。一人だけだぞ!」
    「ありがとうございます。いやーー助かりました。こいつと昔っからの約束、なんですよ。」
    「おらよっこれでうちきりだ。今回のボランティアは使いまわさんとやりにくそうだ。って事でこいつが『元気組』の最後の一人だったぜ。」
    テーブルの上には数枚の書類が載っている。顔写真付きのそれらは皆健康そうにも病気にも見えなかった。
    「『元気組』になるまで我慢させましたからね。」
    見上げた窓の外に、青い空が広がっている。






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    空と海の狭間で-2

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/06(金)
    「おーいチョッパー!かいもんに行くぞー!」
    「ゾロ!オレ、アイスかっていいかな?」
    「腹が冷えるから止めとけって、じゃないとまたばーちゃんにとばされっぞ。」
    「ええーーー」

    古びた平らな石を敷き詰めた玄関で穴が開きそうになるまで履きつぶされたバッシュに足を突っ込み踵を潰したまま出かける。
    つぶれそうに古い医院は頑丈だから、と言う婆ちゃんの教えのまま家も診療所も古いままだ。台所は当然、待合いと診察室にわずかだけクーラーが効く。冷えすぎはいけないからねというこれも婆ちゃんの教え通り家の中にはクーラーはない。弟のチョッパーには心臓の病気があり確かに冷えるのは良くないが、案外クーラー無しでも家に風が通る。緑の世話は婆ちゃんがやってくれるが、水やりと打ち水は子ども達の仕事だ。
    今日のメモは豆腐とキュウリとトマトと出汁用の昆布に素麺一箱。かと思えば裏に「おじゃがとタマネギとにんじんが安いから5キロずつ買っといで」の追加があった。
    「げ??重いもんばっか俺に買わせる気だな。」
    剣道の稽古まで二時間ある。近所の商店街で買い物は済むから時間は充分。次は6年にもなれば全国を睨んだ大会も控えてる。今年は優勝まで戴くつもりだ。

    出がけに郵便受けの中を覗くと封筒がいくらか入っていた。覗き込んだゾロの背後から影が現れた。
    「あ、ご家族かな?くれは先生はおいでかね?私は医師会より来たものだが・・。」
    郵便受けの向こうから声がした。会ったことはないが背広にハンカチで汗を拭きっぱなしの小太りのおっさんだ。出された名刺は医師会の名が入っている。よく見る名刺だ。受け取って返事をしようとしたら
    「あ、はい。ばーちゃんはこっちです。」
    1年生のくせに小利口なチョッパーがにこにこと客を案内して玄関を指さした。チョッパーは愛嬌もあって、誰にでもかわいがられてる。適任の奴にその件は任せた、とゾロは視線を落とし手元の郵便をチェックする。ダイレクトメールやら学会からやら婆ちゃん宛の郵便物の中に自分の名を見つけてゾロは差出人を見た。
    「『グランドライン企画執行部』・・・しらねぇな。」
    手紙を両手でとんとんとそろえて中身を揃えて破ろうとしたその時。
    「ゾロ!早く行こうよ~~!」
    「あ、待て独りで走るんじゃねぇ。」
    仕事も終えたしと待ちきれないチョッパーの声に、開封は帰ってからで良いだろうとその作業は諦めて封筒は全部玄関の脇に放り込んだ。お尻のポケットに手をつっこんで財布を確認する。忘れモンはないか?これもバーちゃんの教えだ。
    先を歩いてるチョッパーはやたらと手をつなぎたがる。荷物のない時には手を貸してはやる。
    「チョッパー。勝手に走って迷子になってもしらねぇぞ。」
    「ゾロ・・それ、オレのせりふだよ。」
    「一年坊主が兄に向かって偉そうな口をきくな。」
    「だってゾロすぐに『まいご』になるじゃん。・・いたいよ!」




    「ただいま~~おわっ」
    咥えていたアイスの棒が飛びそうになったところを避けたから無事だったが玄関から外も見ないで飛び出してきた物体がある。このすだれの頭はさっきのおっさんだ。
    小学生にしても背の大きい方のゾロとあまり変わらない身長がぶつかってきたおかげで両手のスーパーのビニール袋が揺れている。
    「ゾロ!台所から塩もっといで!」
    さっきのおっさんが振り向き、それでも懸命に婆ちゃんに声を掛けようとしている。
    「でも先生!私の話も・・・!」
    「五月蠅いね!アタシに口ききたきゃもっとしゃんとした理由ででておいで!間違っても医師会を装って来るようなうさんくさい不動産屋の手先になった奴にまたがせる敷居はうちにはないよ!・・こらゾロッ!ぼんやりしてるんじゃないっ!」
    展開が判らなくてもぼやぼやしていると絶対に矛先が自分に向くことだけは避ける。慌てて荷物を玄関において台所に駆け込んだ。
    塩のツボを抱えて持ってきたときにはもう客は居なかった。

    「チョッパー、溶けてるぞ。」
    ビビったまま動かないチョッパーの手が溶けたアイスで汚れかけてるから代わりにべろっと舐めた。
    「あーーーー!ゾロ!酷いっ!」
    その声にようやくはっと動き始めたチョッパーの声をおいてきぼりにして、ゾロは台所に買ってきた物を運びこむ。冷蔵庫まで片付けるのも仕事の内だ。チョッパーが細かく手伝うが届かないので上の方はオレがひょいと取って入れる。婆ちゃんは万事に細かく色々うるさい。
    うるさいのは困るからやる。いつものことだ。

    「終わったぞ。」
    居間にはいると風が抜けていく。相手に出したテーブルに残ったコップの麦茶がもうじっとりと汗をかいている。
    「なんだ?またここを売れって?バーちゃん相手に命知らずの奴だよな。」
    アイスの棒だけをしゃぶったままゾロが声を掛けた。
    「ガキが生意気言うんじゃないよお前はちゃんと買い物を片付けたのかい?」
    「それはおれがやったーー」
    チョッパーが答える。くれははよほど今回は腹に据えかねたようでまだ口の中でもごもご言っている
    「・・何が『跡取りの息子さん夫婦もおいでない上にお孫さんまで亡くされてはもう・・』だ。事情を知ってるからってそこまで踏み込まれるこたぁないんだよ」

    疲れ知らずの祖母の額に少し翳りを感じる。その原因はゾロには一応わかってる。
    「なぁ婆ちゃん。俺、やっぱり医者になったほうがいいのか?」
    この話題が祖母の逆鱗にわずか数ミリな事は判ってる。だけど・・。
    「ゾロ。クラスのビリから三番の奴が言う台詞じゃないね。医者ってモンを舐めてないかい?」
    「ちがうよーーゾロはねててじゅぎょうをきいてないからせいせきがわるいってコウシロウせんせーがいってたー」
    「・・・ってチョッパーおまえが聞く話じゃないよ。仕事に就くときはやる気がないとどんなことでも大成するわけ無い。だから要らないことばっかり考えてるんじゃない。それにゾロ、もう行く時間だろ。」
    「ああ。・・そう言えば俺宛の手紙ってなんだったんだろう?」
    「手紙?」
    玄関から取ってきてそれをくれはに見せると彼女はいつもの笑顔に戻った。笑ってんのに怖い。やっぱりこの顔の婆ちゃんに挑んださっきのおっさんに少し同情する。
    「ああ、来たか。ゾロ、お前これにいっといで。夏休みに入ってすぐのやつだから。」
    中身もあけて見ないで言いながらバーちゃんは手紙の封を切り中身をよこした。
    キャンプ?
    その日付・・。
    「?・・・・バーちゃん!俺、夏には大事な試合があんだよ!」
    「試合よりずっと前じゃないか。」
    「週間前だよ!それまで練習しないでどうすんだよ!」
    「ああ?・・・・・・ゾロ。お前扶養家族の分際でアタシに逆らおうってのかい?」
    やばい。
    けど必死だった。

    「全国大会なんだよ!」
    「いかんでいい」
    「婆ちゃん!」
    「うるさい!!」
    「でも!」
    「でももしかもない!頼まれて欲しいことがあるんだよ。今年じゃなきゃダメなんでね。だからいっといで。・・返事は?!」

    暑い夏なのに、バーちゃんの背中から凍気が出てる。
    これだけ強固な祖母には決して逆らえないことをゾロは骨身にしみて判っている。

    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」




    生まれてこの方婆ちゃんに逆らえる奴にはお目に掛かった事がない。
    近所の医者の間でも有名な彼女は治療一つに関しても偉い先生達にくってかかる事しばし、口うるささと裏腹な丁寧な診察にファンも多いが反面嫌がる奴も多い。客商売には不向きだと思うのだが貧乏でも自分のポリシーは崩さない。
    そう言う祖母は尊敬し、服従もしている。このバーちゃんは医療の腕も凄いが腕っ節も普通じゃない。庭に忍び込んだ泥棒が失禁と治療付きで全治二ヶ月だったとかの噂もあり、小学生ごときではいくら全国区でも有数のゾロでも全く刃が立たない相手なのだ。

    「わかったら道場に行く前に仏壇に手を合わせて行きな。」
    「はい。」

    我が家の仏壇は賑やかだ。死んだ顔も知らない爺ちゃんに加えて自分の両親と、姉のくいなも入ってる。家族の半分以上がそっちに居るという状況にも慣れてはいる。
    ゾロが入れ忘れた豆腐を冷蔵庫に入れてにっこり笑ったチョッパーがとことこゆっくりした足運びで来て、ゾロの隣でにこにこ手を合わせている。
    「びっくりして無理したか?また鼻青いぞ。」
    喘息に伴うチアノーゼに対して唇だけでなく鼻の頭も青くなるチョッパーは6歳。最近はそれを言われるのがどうも嫌らしく、いきなり薄青い口をとがらせた。
    「はやくいけよ。るすばんはオレがしておいてやる。」
    「判った、けど今日は少し早く帰るよ。内緒でアイス買ってきてやるからちゃんと吸入器吸っとけよ。」
    いきなり目の色がキラキラ輝いた。










    空と海の狭間で-3

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/06(金)
    「グランドライン」が本当にあるとは思わなかった。



    一度役所の用事で遠出して学校に遅刻したときのことだ。本人の確認が居るとかで二人で出かけた。
    「これで終わり?だったら・・」「駄目です!子供一人では危ない!!」
    用件は終わったはずなのに単身で学校に行こうと思ったのに役所の人が言い張るのでエアコンの効いた役所の中で待つことにした。子供だからと言う理由は案外不便だが仕方ない。時間がものすごーーくかかった。すんで見れば給食も始まって間にあわなさそう。もう何時行っても変わりないわと二人で溜息をついた。ノジコも学校に行くから別れたあとバス代をけちってのんびり歩いていた。歩けない距離じゃないし大きい道路ばかりだから問題なんて無い。その帰り道の途中の公園で独りでブランコに座っている子供がいた。
    幼稚園前くらい?こんな子供が一人でいるなんて。
    「お母さんは?まさか迷子じゃないわよね?」
    「おかあさんはぶつだんのなか。」
    「あ、そうなの?じゃぁアタシと一緒ね。他におうちの人・・は?」
    そこに答えはなかった。もしかしたら近所なのかもしれない。代わりに少年の目はきらきら輝いていた。
    「ね!おねぇちゃんもお母さんいないの?」
    「うん。」
    それが連帯感の引き金になったか判らない。そのままナミは少し座り込んでしまった。
    少年は6歳だといった。その割には体が小さい。てっきり幼稚園くらいだと思ったのだ。心臓と喘息の病気があるとかで小学校も休みがちだといった。顔色も悪いけどもっと鼻先が青かった。けど本人に言われなかったらてっきり痣か何かだと思っていた。
    「ねぇ、オレのはな・・・あおい?」
    「え?」
    「ねぇ!どう!?」
    突然の質問だったが、あまり小さい子供と遊んだ事がある訳じゃないからどう答えればいいのか余計に判らない。
    子供相手でどう答えて良いか判らないから真剣な問いには正直に答える事にした。
    「うん。少し。青いね」
    少年は口を半分開けて、それから頷いた。
    「そっか・・・おねえちゃんはうそゆわないんだね」
    「え?」
    「このおはなもからだがわるいからだって。オレも、そのうちくいなやぞろみたいにしゅじゅつをうけて、“ぐらんどらいん”にいくんだ!」


    その時にはグランドラインが何を意味するのか全然想像も付かなかった。テレビのアニメか何かだろうと想像したくらいだ。その嬉しそうな顔に水を掛けるのが嫌でその時にはそのまま頷いてみた。
    「そうか。がんばんなさい!」
    「そうさ!おれ、がんばるよ!」
    ナミにとってもたった一度一緒にいただけの子のこと。すっかり忘れていた。






    おでこを付き合わせて二人で参加のしおりを総ざらいした。
    「もういいんじゃない?それだけやったらさ」
    「ううん。きちんとしておかないと」
    飽きてきたナミは物事をきちんと詰めるビビに併せてはいはいと栞を頭の上で振った。ビビが人差し指で一行一行さらう。
    「確認するわよ。基本費用は互い持ち。けど本当に良いの?私につきあって貰うのに・・。」
    「いくらビビの頼み事でもこれはゆずれないわよ。うちの母の遺言。「友達から借金禁止」」
    「それから帰ってきたらナミさんにパパの使ってないパソコンを貸してあげる。」
    「回線付きよ?学校のパソコンじゃもう限界だし・・けど良いの?」
    「私に使って良いって言ったのはパパ」
    「いーわよねぇ」
    「夏休みの宿題は私の家で夕方にやるとどっちもの家族にオッケー貰う。でも良いの?私は塾の夏期講習から帰ってきたら必ずナミさんに会えるなら凄く嬉しいけど。」
    「だってクーラーとおやつも付けてくれるんでしょう?だから待ってるv」
    「商談成立ね。」
    話がまとまったことに二人共がホッとした。

    「しっかしグランドラインってこれだったのねーー。」
    「ナミさん知ってるの?」
    「う・・知ってるとゆーよりは・・。」
    何故あんな一度あっただけの子供の言った一言を思い出せたかの方が驚いた。
    けどなんだか目の前のビビの顔は真剣そのものだからこんな事言い出せない。
    夏休みの計画をビビに打ち明けられたのは6月も後半だった。昼の日差しはぎらぎらてり始め、夏の予感が膨らんでくる。
    家は貧乏だから余所のおうちの様に「夏休みは海外旅行よ」など言えないのはナミは解っていた。今年も、こっそり浜まで行って泳いでくるかと思っていたが、最近は物騒だから人の来ない入り江に一人で行くなとゲンさんが五月蠅いのが悩みの種だった。



    「ナミさん、よく見て。目的はこの悪そうな女よ。」
    「へぇーーけど小さくてよくわかんないなぁ。けど美人っぽい。で?」
    ビビが指指したしたのは雑誌の1ページ。ボランティア募集の写真には子供達と遊ぶ若い男女が何枚も明るい笑顔で写っている。
    その隅っこの方に黒髪と白い肌のその人はいた。ビビはその感想にむっとしたようだったがニヤニヤ笑うナミの顔に先を続けた。
    「あのね」
    妙に真剣なビビの顔に混ぜっ返しは引っ込めた。
    「これが私の姉、らしいの。」
    「ええっっっっ?!!だって。」
    パンフレットの小さい写真だ。どう見ても二十一歳のノジコより年上に見える。つまり二十歳以上の大人だ。
    「え?ってことは?あんたのお父さんとお母さんがあんたよりずっと前に作ったお姉さんって事?」
    「違うわ。パパが留学時代に浮気して作った子なのよ!」

    パパの留学とはあのパパさんが15歳くらいの時のことらしい。御曹司は若いうちから海外生活をうけた。ちょっと蜘蛛の上の話のような気がするが、それは判らないので脇に置いた。
    時間の関係上その場合浮気という言葉が当てはまるのかとナミは考えたがよくわからなかった。
    しかもその人ももう母親を亡くしているので彼女を家に迎えたいと父親に相談されてビビは真っ向から反対したという。

    「だって!もう大人の人じゃないの!!なんでうちで面倒見なくちゃ行けないの?パパはきっと騙されているのよ。きっとお金目当ての悪い女よ!」
    ビビの家ならばそれはあるかもしれない。かなりの大企業だと聞いてはいたが、新聞やネットでもよく見る名前なのだ。
    ビビの母、つまり奥さんも居なければ、上がり込んだり後妻に収まる人がいてもおかしくはない。しかしビビパパのビビへの溺愛ぶりはかなり凄いことは学校の名物の一つだ。授業参観の時など応援用の段幕を作りかねない勢いでビビは良く首まで真っ赤になっていた。1年の頃にはビビの送迎用のお抱え運転手が黒塗りの車で正門前にいるのは下校時の名物だったらしい。いまでこそナミと帰るからと言う理由で運転手は来なくさせたが、愛妻家で未だにラブラブだとこぼしていたのもビビだ。

    「で?あんたはどうしたいわけ?」
    「乗り込んで、この女の正体を暴いてやるつもりよ!」
    「ふぅーーん」
    キャンプの申込用紙は見事に誤魔化した。ビビは姓を隠してウェンズデー・N・ビビで通すつもりのようだ。


    ノジコのことをうらやましがっていたのはビビ。
    なんか変な感じ。
    ビビは何がしたいんだろ?
    ビビの鼻息に口を挟めないナミはごろんとひっくり返ってみた。


    けどとりあえずキャンプだ!費用も思っていたよりも安かった。民間の企画と聞けばかなり高いのが相場だが、ボランティア重視で案外近距離で日にちの割に内容が少ないからこの企画は案外安価で参加できる。確かに。身体に障害があっては予定通りに進むのは難しいんだろう。決意のビビの横でナミはほんのり青い海と空に期待を込めている。











    「ノジコさんって凄い!」
    一人っ子のビビは何かと繰り返す。仲良しの姉という存在が羨ましいのだという。
    夕方家に来て以来、夕飯の片づけを手伝い、デザートの冷凍蜜柑を頬張りながら談笑している。
    「しかしビビちゃんの躾は良いわねー。うちのナミとは大違いだ。」
    「姉の躾が悪いんでしょー。」
    ビビはくすくすと蜜柑を剥いている。
    「良いなぁ、私、母にも早くに先立たれてるからこういう雰囲気って憧れだったんです。」
    「18でパパさんと運命の初恋に落ちたって言う美人で激しいママさんね。」
    ナミが補足的に突っ込んだ。
    「ええ!でもノジコさんだって。このお年で結婚なさって4年だなんて、よほどの大恋愛だったんですね?」
    しまった・・・と思ったナミがそっと横顔を伺うとホンの一瞬の不思議な笑顔の後ノジコはぽんぽんと手を叩いた。
    「そう言う秘密はもうちょっと大人になってから教えてあげる。さ、子供は早く寝な。明日の朝、早いんだろ?」
    「はーーい。ほら、ビビ、いこっ。」
    「え?ええ・・・お休みなさい。」


    「私・・何かノジコさんに悪いこと・・・言った?」
    ナミの部屋のベッドの横に布団を広げながらビビは聞いてきた。シーツの皺を伸ばす。明日の荷物は入り口の方に大きなバッグを二つ置く。暑いのでタオルケットを手渡してナミは自分の布団に倒れ込んだ。天井を見ながら切り出す。
    「う・・・ん・・・言っとくね、内緒よ。」
    ナミの声も顔も真剣だったからビビは思わずつられて真剣に頷いた。

    「ノジコの結婚ってちょっと違うのよ。」
    「ええ???」
    衝撃的な告白にビビはナミの肩を掴み、目線の高さのナミに覆い被さらんばかりにかぶり寄った。
    あははと横を向いたナミの笑顔は優しい。
    「あたしの為の書類上の結婚なの。ほら、うちの母さん非婚の母でさ、身内が居ないままノジコが15歳あたしが5歳で死んじゃっんだよね。そうしたらあたし達そのままじゃ引き取り手も居なくて二人で施設にやられるところだったのよ。そこをノジコが頑張ってくれてね。母さんの死後一ヶ月でちょうど16になるからって結婚相手を捜したの」

    『ドク!どこかに奥さんに先立たれた80歳の係累のない奇特な人居ない??』
    『何じゃ?その条件は。』
    『あたしと結婚してくれる人。』
    『この小娘が!こんな時に訳の判らん事言うな!?』
    『どうしてだよ!あたし真剣なんだよ!あたしが結婚すればナミを引き取って育てる事が出来る。すぐにでも籍をかしてくれて何も影響のない人ってそのあたりでしょ。あたし本気よ。どこかにそんな知り合い居ない?』

    絶句したドクの横から声をかけてくれたのが隣のゲンさんだったの。多分ゲンさんもベルメールさんの事が好きだったんだろうなぁ。あたし達の事も娘みたいに可愛がってくれてたし。ゲンさんは独身男だったから今度はノジコが遠慮して決まるまではすったもんだしたけど・・。結局籍を入れて家はそのまま二件構えてご飯は一緒に食べてくけどあたし達が寝たらゲンさん自分ちに帰ってるみたい。でもそのままの生活でもうノジコも21になったのにまだ離婚届出してないのよね。」

    ナミの部屋に敷かれた布団の中は薄暗くって秘密の話にはもってこいだ。

    「私・・いけない事を言った?」
    「大丈夫よ。慣れてるしね。でもこれから気を付けてくれると嬉しい。」
    「当たり前よ!」
    「さ、寝よ。明日は早いよ。」
    「うん。」
    興奮していたのに消灯するとすぐにビビの寝息が聞こえてきた。学校の林間学校でもそうだったが相変わらず寝付きは良い。
    ナミの静かな興奮はちょっと高ぶってすぐに寝る・・というわけにはいかないみたいだ。

    ベルメールさんの死後、保険会社にいた友達って人のおかげですぐに保険が下りたから二人の基本的生活には困らなかった。ゲンさんは家族になったが二人への距離は変わらない。
    だけど実は・・・ゲンさんとノジコは密かに想い合っているのではないだろうか。以前からナミはそう考えていたし、そうなればいいなとも思っていた。お邪魔虫の自分が居なければ二人の間に変化があるかもしれない。今回は絶好の機会なのだ。

    『グランドラインか・・あんたに似合いかもね』
    『あのこととは関係無いよ。たまたまビビが・・』
    『そう言いなさんな、キャンプファイヤーもあるっていうから試してごらんよ。あたしもそれっくらいいかせてあげたかったから願ったり叶ったりじゃないの。一人よりもビビちゃんが一緒なら良いでしょ?こっちからビビちゃんに頼みたいくらい』
    ノジコに最初にこの話を打ち明けたときの言葉が少しだけ気になったが直ぐに忘れた。

    帰ってきたらビビのパソコンをかして貰える。これでオンラインで株の売買が出来る。
    前から自分だけでお金を稼げる方法が知りたかった。近所の本屋でその手の雑誌を見つけて立ち読みして、クラブでネット上のシミュレーションをやった時にはばっちりともうけが出た。先生にも褒めてもらえたし自分は天才じゃないかと思った物だ。
    ちょっとした小遣いが作れたらそれはきっと助かるに決まってる。
    クラブの時間に必要な書類とか株式システムの勉強もしてそれをレポートにしてあるから夏休みの自由研究はこれにすれば手間はかからない。
    あたしって本当に天才かも。




    そして南の海!
    青い空に白い砂浜。テレビで見てはいるけど本当になんていけるわけもない。想像上の海だ。行ったことのない青い海!
    しかも格安料金。
    自分の肩に残る傷は見せたくないけど憧れが消えるわけはない。


    「一石三鳥v」


    そして寝息は静かな合唱になった。








    空と海の狭間で-4

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/06(金)
    港への予約のバスがでる駅までここが始発で電車で一本。
    朝のラッシュ時を超えると人の歩みはゆっくりだ。今日も良い天気。大きな荷物を抱えて2人はゆく。

    「え?ゴールドの指定席の予約したの?何でそんな贅沢・・・。」
    「ええ・・・その・・テラコッタさんがそれじゃなきゃ駄目って準備してくれたの・・」
    テラコッタさんは彼女の家のメイド頭。不在がちな家の主すら敵わぬ女傑で彼女自身早くに母を亡くしたビビの乳母も自認している。その彼女に黙って今回の計画が進むはずもなく、結局ビビは相談という名の報告をさせられて、終いにはこうなった。ゴールドと言えばかなりな贅沢だ。
    交通費をいくらか浮かせようかと考えていたナミは頭を抱える。駅で乗車員に聞いてももう他の安価な指定席は満員だという。そのナミを見て細面のビビの顔がぴしょんとしょげかえる。
    「駄目だった?」
    せっかくの楽しい企画の最初の一歩から小雨の気分だ。

    「・・仕方ないわね。もう取ってあるんなら無駄にするの勿体ないし。でも次に黙ってやったらあたし行くの止めるからね。それからこの交通費はあんた持ちよ。」
    ビビの鼻の頭を指さし、強気な笑みを浮かべたナミにビビは心からほっとした。駅の売店で仲直りのジュースを買って二人とも堪えた後のくすくす笑いが止まらない。
    「で?その状態で本当に親爺さんにばれてないの?」
    「それは大丈夫。もう一つのレッドラインキャンプに行ってると思ってるわ。本当にノジコさんのおかげね。」
    グランドライン参加を父親にばれる訳にいかないビビは、同じような日程で同じ方向へ向かう企画を探した。そのレッドラインキャンプにナミと二人で参加というわけだ。幸い夏休みとあって同じエリアに向かう企画はいくらでもあった。
    「挨拶しといた方が良いよねー。」ノジコが言ってくれたから頼りにした。
    彼女の依頼で姉が 『若輩者ですが、しっかりとお預かりして見送りいたします』とビビの父に入れた電話は彼を感激させたそうだ。

    「それならそれで広い上等な席を楽しまなきゃ損ってもんよ!」
    彼女にむけるその笑顔の眩しさにビビの気持ちが晴れ上がった。今日の空と同じ色に。






    「で、これは何なのかしらね?」
    「さぁ。でも困ったわ」
    一等車の豪華な車内のふかふかしたシートの中に盆栽が置いてあった。いや盆栽に見えたのは彼の髪の色で、しかも座ってと言うよりは既に気持ちよく高鼾のようだ。始発駅だからこそ出来る話なんだろうけど、緑色の髪の自分たちと同じくらいかもう少し大きい?中学生くらいの少年が大きな鞄を真横に乗せて腕を枕に寝ている。ナミ達の気配も全然気が付かないようだ。

    「あたしたちここであってるよね?」
    チケットとシートナンバーをもう一度確認する。間違いない。

    「きっとまちがえられたんでしょう。でも・・しっかり寝てるわよね。悪いかな?」
    「遠慮することないんじゃない?」
    ナミはその腕に半分隠れた男の顔に向かって声を掛けた。
    「あのーー席、まちがえてますよ!!」
    ナミの大きな声に周囲の客の一部がちらりと視線をよこしたが当の本人は一切無しの礫。

    ・・・・微動だにしない男の子の姿とナミの額に浮かんだ青筋の双方を見てビビの胸は早鐘を打ちだした。
    「ナミさ・・待っ・・。」
    「ちょっとあんた!起きなさいよ!人の席でそこまでじゅくすいって一体何考えてんのよ!」
    まばらな乗客の皆が一斉にこちらを向いた。
    「あ?」
    少年は目を開けた。眠たげに、半分だけ。
    それでもむくれてるナミとはしっかり目線があった。





    「こちらの発券所のミスですね。同じ旅券が二枚ある。」
    穏和な笑顔の初老の車掌がナミの旅券と少年のを比べて、同じように穏和な声でそう告げた。
    「こちらのお嬢さんのとこちらのお兄さんの番号が同じになってます。」
    「と言う事は・・?」
    テラコッタさんの予約は最初から取っているはず。
    「俺はさっき駅でこれしかないってもらっただけだ。」
    少年はまだ眠そうに肩を回している。
    「目的地も同じで起こったミスですかね。いや、申し訳ない。こちらで宜しければ別に席を用意いたします。」
    車掌は通路を挟んだ反対側を指さした。高い席だけにまだ余裕はあるらしい。子供と思って舐めているのか声は穏和だがあまり申し訳なさそうじゃないその態度に思わずナミの口が動いていた。
    「え、でもこちらの本来の方が景色が良いわよね。」
    指定の席からは海が見えるのだ。この列車は狭い海岸線を走る為反対側は崖ばかりであまり楽しいとは言えない。それも二人には楽しみの一つだっただけにもう少し不満が残る。
    せっかくの旅行なんだし。
    なんで後から来たからってアタシ達が動かなきゃいけないの?

    「良いぜ、俺が動けばいいんだろ?」
    少年は大きなあくびをした。脇に積んであった荷物をさっとまとめて軽やかな身のこなしで静かに起きあがると荷物を肩にかけた。
    「そっち、空いてるんだな?」
    「そ、そうですが・・」
    大きな横長の鞄をどさっと席に放り込んで二人の目の前を緑の短い頭がすぎていく。
    「え?・・あ・・・・あの・・・・。」
    ビビの声は言葉にならなかった。
    「ありがとうございます。これで大丈夫ですな。」
    「あ・・・」

    もう一言言いたがったナミの口はこれで解決という車掌の一言で片づけられてしまった。
    おかげで二人は何も言えなくなった。
    自分が何を言いたかったか説明できない。ちょっとくすぶる不満を言いたかったのか?珍しく混乱しているのに少年はもう向こうでさっきの続きとばかりに転がっている。前に伸びた鍔が大きめの帽子を顔に被せて手を組んで微動だにしない。
    「良・・良いのかしら?」
    「ありがたく受けときましょ。」
    ナミの横顔はいつもより膨れて見える。
    (やなのー。なんだかこっちが追い出した悪者みたいじゃない。)
    少年の態度があっさりしていればいるほどナミの癪に障る。



    列車は動き始めた。窓の外の晴天の海は綺麗で思わずビビは身を乗り出した。
    「ナミさん!やっぱりこっちで正解よ!良かった・・・・・よね?」
    ナミはさっきの頬を膨らませたままのようだ。蒼天に一瞬ナミの不機嫌を忘れてたビビは反応の少なさに少し腰が引けた。

    「・・やっだなーーアイツ、同じツアーよ。」
    「え?」
    ナミは組んだ足を組み替えて広いシートの肘置きに体重を預けた。
    「バッグのポケットにグランドラインのパンフレットの端が出てた。」
    向こうの座席の彼の足下に大きめの緑色の鞄が溢れて見える。ナイロン製だから変形しているけれどそのポケットに確かに何か小さな紙片が見えた。

    「すご・・よく見てるわよね流石はナミさんだわ。」
    ナミのこういった目端の効き方はもう才能としか言えない。その素直に褒めた言葉もナミの口元を変えることはない。
    「ほんっとなんかむかつく。」
    まぁまぁとなだめて二人、窓の外を鑑賞することにした。だって外は良い天気よ。午前の内は風もまだ涼しい。南の島へなら旅の始まりにはうってつけ。
    さっき買ったジュースはすっかり濡れて取り出したハンカチで拭って開栓する。2人で乾杯とばかりに飲み込んだ。




    前方のトイレのサインが空になった。
    「私、ちょっと行ってくるわ」
    軽やかに席を立つとビビは自分のポーチを手に取った。
    「おつきあいしましょーか?」
    にやりとナミは笑う。
    「いいですよーだ」
    普段でも教室であれだけ仲の良い二人だがそう言うところまではあまり連れ立っていない。


    明かりが付いていても列車の中。手洗いの洗面所は薄暗い。そこに映る自分の顔も薄暗い。
    ナミと居るときには少しは忘れてナミの明るい顔と同調できるが一人になると思いは目的に集中する。

    父に、誰かが居ることはいつからか知っていた。
    父がたびたび出かける相手。お金を渡している相手。浮気かと亡き母に対して許せない という思いで父の部屋をあさった時に写真が出てきた。光る銀髪の背の高い人と良く似た黒髪の女の子の写真を一番大事な引き出しの奥の宝箱で見つけたときには怒りが炸裂しそうだった。


    鏡に小さかった自分が映ってる。あれはまだ幼稚園だった?
    『パパ!おかえりなさいっ!!!』
     母が亡くなっても父の仕事は多忙を極めて中々あえないことが寂しかった。だから会えるときには寝るまでずっと父と離れたことはないほどの仲の良さだった。
    『今日はいい話を持ってきたよ』
    前から頼んでいたSteiffの大きなクマのぬいぐるみだろう、今度幼稚園にもってって自慢するんだと思ったのに父が連れてきたのは黒い髪の極細い、そしてビビよりうんと大きい女の子だった。
    『ビビ、お母さんがいなくなって寂しいだろ?だから・・・』

    その先を聞きたくなかった。
    聞くのは怖かった。
    だからそのまま父にむしゃぶりついた。
    『パパがいればいいの!!ほかはいらないの!!!!!いらないの!!!いやなの!!!!』
    ちらっとパパ越しに見た一瞬、彼女の白い肌が青くなったことだけは覚えてる。




    父の裏切りを許せなくてこの四月からずっと考え込んできた。その時に偶然あのチラシを見つけた。色々な写真が切り貼りされていてそこに小さくうつった、それでもすぐ判る。
    映っていたのは子供の頃の写真とあまり変わらない顔だった。
    勉強も手に付かずそのチラシをそっと持ち、自室のベッドに転がって眺める。
    なんの感傷もわくはずなんて無い。ただ写真を見ているとムカムカしてきた。なのに誰に相談するわけにも行かない。

    何で?なんであたしがこんな思いしなきゃいけないのっ!


    会って直接言ってやりたくなった。
    私のパパに近づかないで!姉だなんて絶対に認めない!気持ち悪い!けどパパには言えなかった。

    ナミさんに今回のキャンプをお願いしたのは父の目をごまかす為もあるが、ナミさんとだったら何とかなりそうに思ったから。彼女と一緒にいてもの凄く勇気を貰ってる。
    以前、同じ学校にいた頃には自分ばかりがいじめられるのが怖かった。今は学校が大好き。ナミさんに会えるから。

    それでも
    「え?キャンプ?あたしんちびんぼーだからお金無いのよ」
    「お願い。まだ会ったことのない父の女を見にいきたいの」
    一瞬恐い顔をした彼女はこれ以上は聞かなかった。それ以上聞かない代わりにビビに条件を出してきた。あたしがお父さんのパソコン使えない?とか、夏休みは一緒に勉強しようとか。
    これはナミさんが私に負担を掛けない為の優しさだって事だけは良く判った。ありがたいその分頑張らなくっちゃ。



    「・・・水」
    男の子の声がした。
    「水!」
    耳元で大きな声。え?

    洗面所の鏡に少年が映っていた。黒い髪の男の子が居た。背は私よりも少し小さい。
    「水!遊んでんならおれにやらせろ!」

    えっと、考え込んでいる内に洗面所の手洗い用の水は出っぱなしで手はびちゃびちゃに濡れていた。手どころかスカートまで濡れてる。
    「あ!駄目よ。」
    慌ててその水を止めるとそれはそれで少年が不満げになった。肩越しに私の顔を正面の鏡で覗き込む。
    「お前、なんかブスだなーー変な顔」

    言い置いて座席の方へ駆け出してゆく。
    なんですって!?
    いきなり初対面の男の子言われて訳がわからず、反応できない間に彼は遠くに走っていった。


    全然面白くないわ!
    全くと言っていいほどに!
    なんなの!?あの女も。そして今の子供も!





    空と海の狭間で-5

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/07(土)
    「ちょっとあんた!緑のサボテン!」
    「ああ?」
    女の声だ。少年はその声が自分の頭髪の事を言ったと気が付いたらしい。
    「道間違えてる!あんたグランドラインツアー参加者でしょ。」
    振り向くと仁王立ちで蜜柑色した頭の女が一人立っていた。
    えっと・・・・?
    少年は頭を傾けた。

    ガイドブックに書いてある。
    『駅を降りたら北口から出てください。北口を出て、右に曲がるとバス停が見えます。』
    そしてまた頭を傾けた。
    「右に曲がったぞ?ちがうのか?」


    電車を降りて地下道から堂々と南口に向かう男を見て放置しようとナミは十度も考えたが止めた。
    判りきった道を間違えるって事がそもそも許せない。

    「違うわよっっ!北口を右でしょ!」
    「そうか?だって北口だろ?北って上で・・。」
    「北口はあんたの背中側よ。」
    「おおそうか、ありがとう。」
    言われて周囲をぐるりと見渡してナミの指さす方向を確認する。
    そこには北口を指す看板がある。さすがにこれで間違えまい。

    頭を下げる角度は正式の物だ。何かを習っていると見た。武道とか?礼儀の厳しめのヤツ。姿勢が良いってそれだけで得みたいな気がする、と、見ていたナミの柳眉が逆立った。ありがとうと方向を変えた後ろ姿が進もうとした方向にナミの理性のスイッチは吹っ飛んでいた。

    「右に曲がるのよ!!」

    後ろから見張る形になったナミはおもいもよらぬ大音響で怒鳴っていた。横にいたビビも思わずその声に吃驚する。面倒見の良いナミのことだ、きつい言い方もたまに・・もうちょっとくらいはするけどここまで怒ってるナミなんて見たことがない。どうしたんだろう?

    ナミはビビの困惑にまで気が回らなかった。
    あのばかってば何を見てるのかしら?改札を通り抜けて北口ってでっかい看板を見てるはず。栞も見たんでしょ?なのに何故そこで曲がらないのよ?
    地図を読むのが得意で迷子を見つけてもなった事のないナミにはこんなあからさまに道を間違えるなんて全然理解出来ない。
    いらいらする。

    少年は再び頭を振り方向を転換した。間違った方向にだけずんずん進む彼にナミは必死に追いついた。
    「今度こそそこで!曲がんなさいよっ!」
    「何で曲がるんだ?」
    「そこが北口でしょっ!」
    「ああ??北口か?なんだああそうか、ありがと・・・」
    「わかってないくせにお礼なんて言わないで!」
    「判るぞ、こっちだろ?」
    「そっちじゃない!こっちよ!」
    「そうか?けどお前が居ると便利だなー。」
    少年はハハハと大きな口を開けて笑った。その屈託無く、何も考えていないようにしか見えない笑顔に余計にナミはかちんと来たらしい。
    「人を便利ガイドに使わないで頂戴。さっき譲ってもらったお礼はここ迄よ」
    「礼?」
    また勝手に悩んでる。
    「礼ってなんだ?」
    ナミはそんな少年を置いたまますたすたと歩き始めた。
    「もう、訳分かんない。ビビ、行こ。」
    「ナミさん?行く先同じなんだし・・」
    「あたしは、道ちゃんと判ってるわよ。付いてくる?」
    そう言えば目的が一緒だなんて一言も言ってないのにナミの言葉はすぐに判ったらしい。少年はにやっと笑いながら荷物を抱えなおした。

    「おうありがとう。俺はゾロだ。ロロノア・ゾロ。お前は?」
    「知らない人に簡単には教えられないわ」
    ナミはつんと彼をの言葉を無視して進もうと荷物を持ち替えた。憑かれると荷物まで重く感じるわ。
    「あーもう。荷物もおっきいんだし。予定より遅れたらあんたのせいだからね。」
    急にナミは止まった。
    「はい」
    ゾロに向かって自分の荷物を差し出した。
    「なんだ?」
    「連れてったげる。そのお礼よ。もってって。」
    「んだとっ!?」
    「文句言わないっ!」
    荷物をさっさとゾロの胸に押しつけてナミは歩き始めた。ゾロは軽く口を尖らせて、肩をすくめてナミの荷物を背負い、ナミの向かう方向について黙って歩き始めた。
    ゾロの荷物は軽そうだ。だがナミが押しつけたナミの鞄は女の子の物としては当たり前だがそれなりの大きさはある。
    ゾロは黙ってさっと鞄二つを持って二人の後について移動を始めた。



    「あっつーーい!」
    外を出てから少し歩くはずの指定のバス停にバスは居なかった。朝に比べるとアスファルトで覆われた停留所は下から立ち上る熱気が渦を巻いている。続く道路も揺らいで見える。
    「まだなの?」
    「うーーん・・あ!アレ!?」
    熱い日差しの中もの凄く遠くからゆっくり走ってくるバスが見える。揺らいで見えるその姿は遠いけど中に冷房が効いてることを予感させる。バス停の庇はそれなりの大きさなのに午前の光はもう肌に痛い。
    三人はその陰に隠れてバスを待った。
    「おい、荷物」
    ん?と振り向くとゾロはまだナミの鞄を持ったままだ。
    「ここにおいても良いのか?それともあんた自分で持つか?」
    どうやら律儀に地面に置かずにおいてくれていたらしい。こいつ、ちょっと馬鹿が付く方の間抜けかもしれない。
    「あ・・ありがと」
    「いや、さっきの礼だろ?」
    脇にすっと綺麗な姿勢で立つゾロの額にも汗の筋が流れて顎の方に落ちてゆく。綺麗だなとは思えるのだがさっきからのことでちょっと気持ちが変な感じ。
    それを何とかしようとナミは心に決めた。まずは負けがこんでるのは嫌。借りなんて作るもんですか。

    「あたし、ナミよ。」
    「?」
    「名前、あんたさっき聞いてたでしょ」
    一瞬呆けた顔の少年は一気に破顔した。





    空と海の狭間で-6

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/14(土)
    あまり状態が良くない道を揺られながらバスに乗って15分。駅と港は近いはずなのに山が海に迫った地形のせいで最後にいきなり山が開くと海が見えた。真っ青な海。山の緑と海の色がもの凄く濃く映える。
    すぐに船が浮かんでいるのが見えた。遊覧船が出港するようなちいさな港に、三人が乗ったバスは着いた。
    バスの中にも大きな荷物を持った子供も途中から乗ってきた。その他にもここには色々な方面からの小さなバスが来ていた。
    大きな荷物を持った子供達が集まっている。

    半分以上は家族が車で送ってきてた。確かに車椅子付きでは公共の交通よりもそちらの方が楽だろう。
    どの顔もどの顔も賑やかで、期待に満ちあふれている。付いてきたお母さんが心配そうに覗き込んでいたり、ずっと手を離さない親子もいる。

    バス停には同じ色で同じロゴの入ったポロシャツを着た大人が何人も立って手を振っていた。キャンプに参加してくれる「先生」達だ。顔はよく見えない。色々な大きさで形の帽子を被ってる。大小男女年齢も色々のようだ

    バスの中から建物越しに見える桟橋にはさっき見えた船が居た。こちらからはヘッドの羊の頭が見える。そんなに大きな船じゃないが可愛い頭だ。
    「あれよあれ!可愛い!」
    ナミの興奮は一気に高まった。バスを降りるのももどかしく荷物が椅子の手すりに引っかかってちょっと舌打ちした。けどそんなもの気にもならない!

    だがビビはと言えば最初に気になったのはスタッフの方だったようだ。
    迎えに出ている先生達をじっと見据えてからちょっと重めのため息一つ。
    ナミはビビの肩にポンと手を置いた。
    「切り替えようよ。人捜しはちょっとお休みしよ。良い天気なんだしあの船ちょっといくない?」
    ナミのちょっと砕いた一言はビビの緊張をちょっと軽くしたらしい。
    「そうね。羊だなんて思わなかった。遊園地みたい。」
    二人顔を見合わせて高らかに笑いあった。







    待合室の中にも船のエンジン音は伝わってくる。
    皆ちらちらと待合室の時計を眺めている。腕時計をしている子は自分の時計を見てやはりあきらめ顔で待っている。待合室は冷房は効いているがまだ心配顔の親も残ってるから人がごった返して熱気の方が強い。
    予定の集合時間はもう過ぎているのに先生達がなんだか慌ただしい。連絡が、とかまだ?とか色々な声が錯綜している。


    二~三人の先生が前に立ち、手を打った。
    「ええっとすみません!まだ出航準備が終わってないのでもう少し遅れます。けど本来の時間よりちょっと押しているのでここで班を発表します。島に渡ってからは班で行動してください!」
    「はーーいこっち見てーー!まずは班の構成をここに貼ります!ちょっと人数とかばらつくから自分が何処にはいるのか確認して、班は全部で5つ!Aから順番にこっちに固まっててね!」


    走り回っては荷物の確認をしている女性スタッフの額に玉のような汗が浮かんでいる。
    預かった荷物と荷札の確認をしてこれを彼女が運ばねばならない。力持ちの男性陣が船の調整とやらに取られてしまったせいだ。時間もおしているのにまだまだ手はずが着かず泣きたくなってきた。そんな彼女の後ろで爽やかな声がした。
    「先生!俺、手伝います。この荷物も運べばいいですか?」
    「え?」
    今回参加の少年のようだ。背は結構大きめなので自分と目線が変わらない。サラサラした髪でにっこり微笑んで積まれた荷物を両腕に一つずつ抱え上げた。
    「何処へ?俺、今暇だから手伝いたいんです。こんなの泣きそうな女性にさせる仕事じゃないですよ」
    今時の子供はみためだけはかなり大きい。顔も体型も10歳違うと進化と言っていいくらいに変わる。だが大人びた柔らかい物の言い方とにっこりほほえんだ瞳はとても小学生とは思えない。本来こんな裏仕事は参加する子供に手伝わせるようなそんなわけにはいかないと思うが、今のこの仕事は早くやらないといけないのに人出は自分しか居ない。手伝いは今後いつ増員されるか判らない。
    泣きそうだった諸事情を考えて彼女は選択した。
    「ありがとう、助かるわ!えっと貴方・・」
    「俺、サンジって言います」



    ちょっと可愛い感じの先生だよな。潤んでる顔なんて見たら放っておけないでしょう。
    「ごめんなさいね、それはこっちの部屋なの」
    高めに響く先生の声によい子の俺はへぇへぇと従う。女性には奉仕をと教わってきたし、要らないことを考えないで済む。
    すぐにでもこの荷物を積んだ後で帰りたい。
    そう、俺はこのガキばっかりのキャンプには自主的に参加した訳じゃない。爺に放り込まれたんだ。

       「貴方は家族のお見送りは?」
       「いやーー家業が忙しいから、それに俺、次は六年ですしもう見送られなくても大丈夫です」

    ガキばっかりのこんな所に来たからってなんになるんだ?よっぽど明日からの店の下ごしらえの方が気になる。爺一人で何が出来るってんだ?まだ他の奴らよりも俺の方が使いやすいの判ってるくせに。
    『ガキは遊ぶモンだ』って、何度も何度も今更言うなよな。俺は仕事するっ!っていってるのに爺は聞く耳もたねぇ。

    クソ乱暴な爺だ。足が悪いのに蹴りだけはすさまじい。普通の年寄りってもっと静かなモンだろうが。
    『俺はおめぇを遊ばせるために引き取ったんだぞ!』
    何度そう言って俺は厨房から蹴り出されたか。

       「送り出したのはお爺さんなの?余計にご心配していらっしゃらない?」
       「そうかもしれませんね。でも俺の方から一人で行くって言ったんです」

    俺の両親は料理人で、腕があれば人生はわたれるって豪語して俺にも料理の英才教育ってヤツをやらせた。写真じゃ歩く前に包丁を持ってた。親は俺の出来が良いからって自慢して俺に毎日料理だけをさせていた。

    そしてそれは幸せだった。

    そんな親から今の爺が俺を引っぺがした。
    包丁も鍋釜も取りあげて『遊べ』って。
    けどいくら言われても俺が面白いんだから良いじゃねぇか。
    学校なんて別に行きたくねぇ。店で接客してる方が楽しい。客は俺にすぐに喜んでくれる。人に喜ばれることはなにより良いことだ。
    腕だってそこいらの大人にひけはとらねぇ。
    やりたいことやって何が悪い。

       「けどこうやって優しそうな先生にも会えたし」
       「なのに荷物運ばせてごめんね」

    荷物を船室に並べてまた取りに戻る。良い感じの船だ。この船で少し沖に出たら食材のいいのが手にはいるかな?
    学校の授業は好きじゃなかった。学校なんて行っても旨い飯が作れる訳じゃない。
    ガキ同士つるんでもクソ面白くもねぇ。

    『人間は一人じゃ生きていけねぇ。肌でつきあう人との営みってモンがあるんだ。』

    俺が店に出たらいっつも客に大受けだったじゃねぇか。俺は社会とつきあってんだ、それで良いだろ?
    子供の世界よりそっちがおもしれぇんだ。俺の好きにさせろよ。

       「良いお友達が見つかると良いわね」
       「俺もそれを楽しみにしてるんです」

    女性には微笑みを。

    腹の文句は絶対に表には出ない。それが客商売の心得だ。本気で相手の身になればそんなモン簡単だ。
    相手の気持ちをくむのが大人って事で。俺の本音なんてくだらねぇ。


     「本当に助かったわありがと!けど貴方本当に小学生?まるで大人の男の人みたいよ。そうそうあっちでも何かあったら私にすぐ言ってね!」


    彼女の言葉が終わる前に男性スタッフが何人か帰ってきた。そうなれば何か言われる前に俺が去った方が彼女も都合が良いんだろう。
    にっこり笑って軽く手を振ってお別れした。おいクソ爺、見ろよ。俺はどこでもちゃんとやれるだろ?





    戻るとさっきよりも親が後ろの方に別れつつあった。班が発表されてて、ガキが移動してる。うるさい。

    子供ばかりの世界の方が面倒だ。こっちがレベルをあわせてやってもそのありがたみをちっともわからねぇ奴の方が多いからな。
    今、目の前のガキは緊張気味だったりリラックスしたり。寝てる奴もいるようだ。こんなガキの世界に入れられてもなぁ。
    だいたい20~30人くらいの人間とすると小さいクラスみたいな感じか。
    ランチならこの暑い日に外だから塩結びと冷たい麦茶が一番。


    おお!!!!可愛い子も、それも二人も!いるみたいだからまだよしとするか。
    あの子らとお友達になれたらそれっくらいで何とか元が取れるかな?
    お!一緒の所に立ってる?ってことは同じ班?!ラッキー!!自己紹介しにいこっ!



    「何であんたが同じ班なのよ!!」
    何でオレンジの可愛い子が怒ってる?
    俺なんかした?
    「俺に言ってもしょうがないだろう。」
    俺の後ろから野郎の声がした。
    こいつ、さっき寝てた奴だ。もう声変わりが始まっていやがる、この可愛い女の子に馴れ馴れしい。やな声だ。
    「ああーー腹立つわーーー!迷子になって迷惑掛けるんじゃないわよっ!」
    「誰が迷子だ?俺が困った事なんて一度もねぇ!」
    「あそこのトイレの場所にまで迷った迷子は何処の誰よ!」

    君ら知り合い?喧嘩?にしちゃ妙に仲が良い雰囲気なんですけど?





    俺たちの班は5つの班のうち最大。A班。
    合計6人。男子4人女子2人のはずが今は男子3人。





    「君達みたいな可愛いこと同じ班になれて光栄だなぁ!」
    二人ともきょとんとした顔もとても可愛い。
    「サンジと申します。レディーのためならば何でも致しましょう。あなた方のナイトと思って申しつけ下さい。特技は料理!ご所望の物なら何でも出しますよ」
    店用の笑顔の最上級でにっこり微笑んでみせる。

    オレンジの髪の子が先にぷっと吹き出した。
    「何ーーそのおじさんみたいな言い回しーー!けどそう?じゃ、遠慮無くお願いするわね。」
    警戒心の解けた顔。
    「良いんですか?こちらこそお願いします。」
    水色の子も柔らかい笑みが超可愛い。
    ラッキーー!つかみはオッケイ!


    「阿呆か」
    呟く馬鹿の声は無視する。オレンジちゃんはナミさん。ちょっと大人びたところのある子だ。彼女にも聞こえたらしく困った顔で視線を送ってる。
    「えっと・・料理って教室とかクラブとか?」
    間を割るように水色の髪の子が聞いてきた。名前はビビちゃん。気遣いの利く子のようだ。それはもっと嬉しい。
    「いや?クラブとかは何もしてないよ。家の手伝いが忙しいから」
    「お仕事手伝ってるの?習い事じゃなくて?」
    「遊びは何もしてないよ。自分のためにはね」

    ゾロが少し眉を上げた。



    空と海の狭間で-7

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/14(土)
    班に分かれて初対面同士がもぞもぞしているが、数人が名乗りあって話し始めるとそれは他にも伝播した。数人いれば一人は積極的な子がいる物だ。後が話題の糸口に困っても名前くらいは名乗りあう。困っているところにはスタッフの人が声を掛けて自然に話が出来るように気を配ってる。
    おかげで狭い待合室は益々ざわざわしている。

    「すみません。実は荷物は積んでますしそろそろ出発時刻なんですが・・・・・一人到着が遅れていましてその、連絡も付かない状態で・・」

    先生の言い訳的な説明の途中でバスの駐車場の方に低い重低音が響き始めて皆がそちらを向いた。大型バイクのエンジン音が港に鳴り響けとばかりにけたたましく響いて、突然のその大きさに皆が目を白黒する。


    「悪ぃーーーーーーーーーー!!!!遅れたっ!」


    一人黒髪の少年がバイクから飛び降りるように荷物ごと走ってきた。爆音バイクは見た目も期待を裏切らない派手さで目がチカチカした。
    「サンキュー赤っ鼻!」
    「おう感謝しろぃって誰が赤っ鼻だぁ~~~~~!」



    「よろしくなっ!」
    「えっとモンキー・D・ルフィ君ね。貴方で最後よ?あの方は?」
    先生が確認する。遅刻者は二つ以上向こうの駅から見知らぬ人の運転するバイクで贈って貰ったという。
    「すんげー面白かった!」
    「・・・」



    待ちくたびれたナミが情報としての興味はあるが、やばそうな気配に関わるまいと決意してる横にビビがお手洗いから帰ってきた。
    「何か凄い音だったわね。バイクの音みたいな・・。」
    ナミは親指一つで自分の肩越しに入口指さした。あまり行儀は褒められないポーズだがナミには似合ってる。指先の一件を口に出すのもいやだったらしい。
    「あ、最後の人来たの? 良かったこれで行ける~~・・・・・ん?」
    「あれーーーー?」
    「あーーーーーー!」
    ビビとその黒髪はいきなり相手を指さしあった。
    「さっきのブス!?によく似てんなお前。」
    「貴方なんか知らないわ!!けど貴方ここに来るんなら私たちと同じ駅でなんで降りなかったの!?」
    「うん、お前の方がずっとおもしれーな。いやーー参ったぜ。電車で遊んでたら降りる駅間違えたんだ」

    シシシと笑う顔には反省の色も無し。しかもとんでもない台詞をさらっと吐いてる気がする。けどビビには聞こえてないのかな?カンカンに怒った顔。いきなりの盛り上がりに周囲とも何処を突っ込んで良いのか声を掛けて良いのか困惑してる。

    「知り合い?」
    栞片手にさっきから待ってたスタッフの先生がとりあえず口火を切った。
    「いいえ!全然っ!」
    「助かったわーー丁度貴方の班の人よ。よろしくしてあげてね。」
    見事にビビの意見はスルーされた。
    「ええええーーーーーーーーーー!!?」



    ナミ達は5つの班のうち最大だった。
    合計6人。男子4人女子2人。
    小さな班は4人の所もある。5人班が3つ。
    一番の大所帯。名前だけは名乗りあった。
    ルフィと、ナミと、ビビと、ゾロと、サンジと、ウソップ。
    6人





    先生は賑やかすぎる待合室で声を張り上げた
    「ようやく船に乗りますよ!班の話合いはまとまった?基本的にはこの班毎に動いて貰います。船を下りるまでに役割分担とリーダーさんをを決めておいてね。」

    船内でもこいつらとつるめって?
    「そう言う面倒なことはさっきにいっといてほしいわ。馬鹿が参加する前に!」
    ナミの呟きを物ともせずルフィは立ち上がった。
    「おう、俺ルフィ!んでこの斑のキャプテンだ!」

    いきなりの暴言とも言えるセリフにナミは真っ向から受けて立つ。
    「待ちなさいよえっとルフィ?遅刻した奴にとやかく言われたくないわ。だいたい普通こういう事を決めるのは話し合いでしょ。あんたよりもしっかりした人の方が良いんじゃないの?」
    「お前、船長やりたいのか?だめだ。俺がやるぞ!」
    ナミの正論を前に、揉めるも何も一人がリーダーをひたすら強く希望すれば他に希望者が居るわけではなかった。水が高きから流れるように他の誰の否定もなく決定する。
    「じゃ、俺はナミさんとビビちゃんのお世話係でいいよ~」
    「阿呆か?」
    ゾロとサンジと二人の間の空気が剣呑となるが誰もが知らないフリをする。
    初めから微妙なモード。班の空気は結構いいとはいえない。



    「係だけでも決めちゃいましょう。後はくじ引きでも良いかしら?私、紙持ってますから。」
    「リーダーってのは形だけだからその外がしっかりしないとね!」
    サンジの独り言はゾロの突っ込み以外流されて、建設的なビビの提案に手早くナミが紙をバラバラにして字を書き込んだ。
    食事の係に掃除係。それから・・。
    「あのさーーうちにはリーダーのお守り係ってのが・・・いると思うんだけど」
    「いえる。絶対に。」
    さらさらとナミがその名を紙に書き込んだ。
    「みんな引いた?じゃ、それで決定ね。」
    食事がビビとナミで、清掃がウソップとサンジ。ゾロには保健係とこの班では一番重要な・・ルフィのお目付役が当たっていた。
    「これってどうすりゃいいんだ?」
    紙を手でクルクル回してゾロはナミに尋ねた。
    「簡単よ。あのルフィから目を離さなきゃ良いの」
    「ほぉー。まぁガキの子守は慣れちゃいるがな」
    ゾロって単純なの?馬鹿なの?迷子以外はちょっと判別不能。

    「けどお前の方がむいてないか?」
    え?
    「煩せぇし、やかましいし、人のことばっかり見て怒ってばっかいるし」
    「やかましい!!」

    我慢とか遠慮とかは一瞬忘れた。手を出さなかっただけ褒めて欲しいくらい。
    アンタとかが目が離せないようなことしかしないからじゃない!!!!!






    空と海の狭間で-8

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/14(土)
    ウソップは空を飛ぶ鳥が好きだった。
    羽の色は多彩。
    地に捕らわれず大空を舞う。

    小さい頃から憧れて絵に描き、学校で彫刻を習ってからはその細工に磨きがかかり小学生ながら県の美術展で準優秀賞になったこともある。

    鳥は大空を舞ながら彼らは言葉を話さず、ただ美しい唄を奏でる。
    唄だけで想いが伝わるのなら、人としての自分の暮らしは如何ほどに楽であろうか。






    小学4年を終えた今知っている。自分は吃である。
    言葉は自分の口からスムーズに出てこない。

    舌に異常があるわけではない。口の形に問題があるわけでもない。
    月に一度、リハビリセンターに通っている。
    様々な用語はどうあれ理解もしているし、使い方も判ってる、聞き取れる。書く方は大丈夫だ。だが意識すればするほど発音しようとした言葉は形を失い舌からこぼれ落ちる。
    聞き返されることの多さにも慣れた。
    緊張して、意識すればするほど言葉は口の中で形をなさなくなる。


    子どもの頃はこれでいて自分は自分なりに多弁な子どもだったらしい。酔うと母がたまにこぼすことがある。何をいわれても治らない俺は困る。だが逆らえばもっと母が困るからいつも黙ってしまう。

    三歳児検診で「少し……言葉に……」と保健婦の指摘を受けてウソップの母は必死になって病院を訪ね歩いた。小児科、耳鼻咽喉科、口腔外科、脳神経内科、精神神経科。良い医師がいると聞けばそこを尋ね、納得のいく説明が貰えないと又病院を転々とした。
    「他に異常は見られないのですし、もう少し様子を見てはいかがですか?それかよい言語訓練師も紹介しますよ?」

    ウソばっかり。これはただの病気だから、原因を見つければ、絶対にこの子は治る。

    そう信じたウソップの母は医師を信じなくなった。言語訓練の一言が出ると病院ごと信用できなくなった。優しい看護師の微笑みも、医師の温かい瞳も砂漠のように見え、躍起になって自分で医学の専門書を読んでは悩み続けた。

    ただの病気。著効する治療法が絶対にある。

    その当時父は船乗りで滅多に帰らず・・そのまま帰ってこなくなった。七年経っても失踪宣告を出さない母のプライドは一人っ子であったウソップにかかり、その愛を一心に受けることになった。
    例えそれが過剰でも。


    2年生の時の担任はウソップを不熱心と取った。基本の国語をおろそかにしてると決めつけた。ただただウソップは何故先生が怒るのか判らない。判らないまま耐えた。心に付いた傷も我慢した。それは小さな心にとても重かった。重すぎて重すぎてあまり覚えていない。ただあのクラスでは皆がそう言う思いを大なり小なり持っていたらしい事を後で知った。
    知ったからと言ってどうにもならなかったけど一番楽な道をそこから選んだ。

    ウソップは話すことを放棄した。

    話さなくなり、たまに話して笑われることに慣れず、医療機関で無頓着に言葉の吃音を指摘された後はそれを本人も気にするようになったのか更に話さなくなった。
    同性も苦手。異性である女の子といえば別世界の生き物。
    会話できない自分に話しかける子もおらず、答えも返さないから嫌われて意地悪もされたこともある。




    今のクラスは話さない自分に無関心だ。だから楽になった。
    去年から新しい保健の先生(しかもよく似た背格好髪型顔の二人だ!)になって、学校での圧力が減り話さなくても良いようにしてくれた。

    「吃ってぇのはねぇ、1000人いれば数人はいるって。大人にも結構居るって言うから心配なぃわいな。」
    「あたしはあんたの声が好きだけどねぇ。」
    「そうそう、話は優しいわいねぇ。」
    先生の言葉は嬉しい。だから学校が少しだけ好きになった。





    ところが。
    今年の夏はちょっといつもと違った。
    「見てご覧!」
    母が一枚のチラシを持ってきた。
    青い空と南の島。『キャンプ・グランドライン』
    「ロジャー先生が考えられたんだって!」

    母の本棚の一冊の著者ゴール・D・ロジャーが発起人だった企画と言うことで母の信頼は駆け上がった。ウソップの脳裏にも見たことのない南国の青い空と海、島に緑が揺れる。見たことのない鳥も見つけられるかもしれない。

    「い・・いきたい!」
    「いっちゃおっか!?」
    すぐに申し込んだら向こうから返事が来た。乗り気になって荷詰めを始めたウソップに出発前日に母が言った。
    「荷物は一人分。あんた一人で行くのよ。」
    「え・・・・え・・ええ!?」




    当日は良い天気だった。
    「ひ・・ひとが・・お、思ったよりおおい。」
    「そんなに多くないから。それより転ばないように気をつけなさい。」
    ちょっとビビって、足が震えている。俺は変な奴だと思われないだろうか。駅から指定のバス停までは母が付いてきてくれた。けどその先は一人なんだ。どきどきしてちょっと帰りたい気持ちが湧き上がってきた、けどバス停で最後にくしゃくしゃに泣きそうなのを耐えていた母と別れてバスに連れて行かれた建物のすぐ側の港には小さなフェリーが出迎えてくれた。
    (・・・・船だ・・・・・・・・)
    南国のとまで行かないが青い海に浮かんでいる船がなんと魅力的な水鳥に見えるだろう。

    ドキドキが止まらない。
    帰れなくなった。







    キャンプでは初対面の人ばかりと班行動を取らなくてはならない。母にも言われてきたし判っているつもりだった。最終的には無口な人間として通せばいいだけだ。ところが、分けられた班の中に女の子が二人もいる。背も高い。学年はあっちが上かもしれない。自分だけが相手をしなければならないことはないが二人はなにやらくすくす話し込んでいる。大声で怒鳴ったり怒ったりしてる。
    (おしゃべりじゃない女なんてどこにも居ないんだ)
    最初から途方に暮れた。


    船に乗り込んで言われたとおりにシートに座る。
    ポケットから先日から取り組んでいた小鳥の彫り物を取り出した。手の中に隠れる小さい1羽は着色も凄く旨く行った。自分としても自慢の出来で母に見せると喜んでくれた。いつものように彼女にプレゼントしようとしたら柔らかく微笑んで彼女はこういった。

    「ウソップ、あんたは誤解されやすいから。キャンプでいい友達が出来たらそれをプレゼントするといいよ。」

    茶のグラディーションの上に綺麗な蒼と緑を重ね羽の先は赤。羽のあたりが軽やかに彫り込めたから赤が際だって綺麗だ。
    そしてもう一つは小さな一片だ。対のように大きくは形を整えてきた。鞄の中にはそういう木切れが幾つか入っている。削る作業は大好きだ。心が落ち着いてくるから。
    人との付き合いが木を削るように思うようにいくなら良いのに。現実は失敗したときの木彫りのように削りすぎては後悔する。
    そんなことばかりが起こる。

    俺は喋らない方がいいんだ。

    「綺麗~~~な鳥だなぁ。お守りかなんかか?」
    背後から声を掛けられた。
    気配なんかしなかった……というよりも人が居るなんて思わない背後から声が降ってきた。
    「い・・・やっ・・・・や・・や・・。」
    「違うのか?じゃぁ作ったんか?お前の宝物か?」
    でっかい目をキラキラさせて口なんかめいっぱい横に広げて笑ってる子どもが更に話しかけてくる。
    「あ・・そ・・う・・。」
    宝物といわれて胸がちょっと躍った。宝物?そうかも知れない。これは会心の出来だし。宝物にちょっと近いかも知れない。こくりと首が頷いた。

    「へぇ~~!誰かに貰ったのか?」
    「あ・・」。
    今度は首をほんの少し横に振った。自分を指さす。
    「お・・・・お・・・・れ・・。」
    「お前が作ったのか???すんげぇ!!これを??お前って凄いじゃん!」


    そいつの顔がきらきらしてる。
    そのきらきらした顔が凄いって自分のことを言った。
    滅多にない経験だった。
    母以外の人間に褒めて貰うなんて。しかも初対面の。
    話すことをしないウソップの評価は当然いつも低い。
    覚えている限りで初めてかも知れない。展示会に入選したときにも自分はひっくり返ってしまい、表彰状は先生が貰ってきてくれた。
    よく見れば声を掛けてきたのは自分と同じくらいの子どもだ。最後に着いた時から大騒ぎをしていた奴だ。あれくらい元気なら悩みなんて無いだろうなとちょっとあきらめの気持ちで見ていた。

    初めての人間だ。なのにこいつは俺がちゃんと言えなくても判ってくれる。初対面なのに何故だろうとは思うのだ。しかし、間違いなくこの黒髪の男にはリラックスしている自分がいる。
    「俺、ルフィ。」
    頭には麦わらと言うよりもっと大きな葉で作った帽子。赤いリボンがやや大きめ。よれ具合は散々な物で直した後もたくさんある。女の子の帽子には決して見えない。
    麦藁帽子・・というよりはもっと違う葉で作られている気がする。どっちにしても年季の入った、実用にはあまりむかない物だ。
    彼と同じように笑ってみることにした。歯を揃えて唇を思いっきり横に引っ張る。彼も又同じ顔で返してきた。
    「しっしっしっしっし・・」

    言葉は無くっても同じ気持ちが帰ってくる。
    「お前一緒の斑だったよな?」
    ルフィは帽子を被り直した。
    「手先の器用な奴がいると冒険の時には絶対にいいよな!って事でよろしく!!ついでに猿のおっさんが運転してるトコを見せてくれるってさ。お前も行かねぇか?」
    「・・・さ・・る?」
    「ほら!最初におっきな声出してた猿顔のおっさんだよ!」
    それは船長だ。出航間際に安全説明をしてくれた。怖そうと言うより猿系と言った方が判りやすい顔だったことを思い出すと吹き出してしまった。確か名前はクリケットさん。

    「な、判りやすいだろ?」
    ルフィが俺の背中をバンバン叩く。笑いが止まらない。ルフィはもっと俺の背を叩く。
    「い・・痛ぇよ!!」
    俺からすんなり大声が出た。けどびっくりもしない。
    もっとルフィが笑顔になる。
    わくわくが止まらない。




    空と海の狭間で-9

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/14(土)
    「おう、来たか。」
    猿顔のおっさんは笑ってなかった、けど、歓迎してくれた気がした。
    「おう!来たぞ!」
    「友達も一緒か。」
    「ああ!友達だ!」
    ルフィはオレの肩をばんばん叩く。クリケットさんの前で嬉しそうなルフィの声に俺まで胸を反らしたくなった。
    俺のこと友達だって。
    「ダチは帽子は被ってねぇんだな」
    「ああ、そうみてぇだな」

    「おいおい見せてやっても良いがガキに仕組みが覚えられるのか?」
    もう一人大きな体の男が居た。
    「こいつは器用なんだ!だから作る方だってできるぞ!」
    ルフィが俺の身体をどんと押す。
    「ほほう」
    大男のフランキーは大工さんらしい。毎年この時期はここのアルバイトに船員をやってると言った。

    「まぁ、約束したからな、見せてやるよ。名前はゴーイングメリー号。そう大きい船じゃねぇ。大きさは3154t けど動力はタービン二連のおかげで排気量が・・言ってもお前等には解らんな。これでもちっさいなりに今時の船だからな。動力はガソリンだし規定の1.5倍も積ませてくれてるから推進は安定してる。舵は……ここがミソだ。中枢のコントロールがあってこの地図に行き先を設定すれば自動でそこまで連れていってくれることになってる。今回の行き先も入れてあるしな、設定さえちゃんとしたらお前らでも動かせるってのが売りだ。」
    「俺らでも?」
    ルフィが目を輝かせた。
    「まぁ、宣伝上はな。
    けどまぁまだまだおめぇらチンコの毛も生えてねぇガキには無理だ。がっはっはっはっは。」

    クリケットさんの手元にあるのは小さなパソコン程度の大きさの機械だった。脇にいた水色の髪の大男が大きな指でその画面にタッチすると地図が出てきて設定画面が現れる。
    俺はカーナビに似てるなと思った。
    クリケットさんがオレに向かってにやりと笑った。
    「おめぇ、今カーナビに似てるって思ったろう。」
    「!」

    !!何で判ったんだ!!??
    簡単と思ったとかもばれた?

    「バーカ。誰でもそう思うんだよ。」
    そっか。
    「俺は思わなかったぞ。」
    ルフィが俺の横で威張る。
    「そーかよ。」
    「だってカーナビしらねぇもん。」
    これには吃驚した。オレもクリケットさんも同じ顔だったろう。今の車にはほとんど付いてるのに。
    「そりゃ悪かったな!しかし今時えらい旧式の車に乗ってんだな。」
    「いや!車のって行くのは病院しかなかったから!」
    「そうか!わはははは」
    「おめーらもう良いよ」
    フランキーがぼやくくらいに二人は妙に波長が合っているようだ。ルフィは興味津々の顔をしていたしクリケットさんも怒ってる感じはしない。それよりもその間に俺は画面をじっと見ていた。平らな画面の中に行き先の登録ボタンもある。さっきの港とか、今回の目的地なんかはもう入力されてるんだろうか?
    クリケットさんが画面に手を触れ始めた。

    「こうやって目的地を設定する。  行き先が決まる。と衛星と船が勝手にそっちへ運ぶ。けどな。」

    綺麗な手の動きだ。
    これが出て、これが出て、スイッチと順番とが綺麗だから映画のように自分の記憶に残る。
    次に真似しろって言われたら、俺にはきっとできる。


    そこからはぎょろ目のように顔を近くに寄せてきた。結構口が臭い。怖い雰囲気と合わせてちょっと逃げ腰になる。
    「当然機械は海や天候の微妙な変化には対応出来ねぇ。人の勘ってぇ奴がやっぱり一番大事なんだ。いくら作っても万能の機械なんてねぇなぁ。だからいくら機械が発達しててもな。そん為に、俺らがいる。俺らが何とかする。だから安心しろ。
    けどおめぇらは触るな。良いか?判ったか?」

    恐い顔つきを作って言うクリケットさんの言葉は『触ったら命はないぞ』といっているに等しかった。
    なのにルフィには何処吹く風のようだ。怒られてびびったのは俺一人。触ろうと思った訳じゃないんだけど。

    「この船でずっと行くんだな?」

    爛々と船の先端の先広がる海とを見るルフィが低い声で確かめる。
    ああ、あのパンフレット写真のあの島まで俺たちはゆくんだ。何もいわなっくてもこいつも俺も同じ気持ちを持っていることが判る。
    先への期待を。未来への期待を。
    ところが彼の口から出た言葉は俺の知らない単語だった。


    「おっさん!ラフテルはどこだ?」
    ほう?と口をすぼめたがその視線はルフィと言うより彼の身体にむいている気がした。
    クリケットさんと水色の髪のフランキーがルフィをじっと見た。
    「最南端のあれか。コゾウ、お前よく知ってるな。」
    「ああ、今回は行くんだよな!」
    「けどよーいつもと同じで予定には、なってるけどな。天気次第で行きにくいんだぞ。あそこまで行くには一日がかりだ。」
    フランキーの答えの間にクリケットさんはスイッチをいじり始めた。オレの目のまで画面に入力済みの文字が浮かぶ。さっきと同じ手順で画面に出てきたのは行く予定の島から更に南へ30km。周囲には海しかない島だ。

    「これが『ラフテル』だ。」 

    見るとルフィは真剣そのものの顔をして画面に食いついてる。
    「ああ。ここだな。オレ、ここに行くんだ。」
    「判らんぞ。小僧。お前が決めるんじゃねぇ。そんなもんいろんなもんがきめる。おめぇじゃねぇよ」
    「行くったら行く!!俺が決めた!!!絶対だ!」

    気づけば二人はにらみ合っていた。
    ちっこいルフィがものすごく大きく見えた。まるで大人と同じくらいに。いやそれよりもっと大きな男に見える。クリケットさんは先ににらめっこから降りた。
    「それだけの気持ちがあったら・・あとはガンフォールさんに祈ってろ。」
    「誰だ?それ?」
    「天気の神さんだ。しょぼい髭の槍みたいのを持った神さんだ。しらねぇか?」
    「しらねぇ。」
    俺も首を横に振った。





    ****




    快晴の海の上を船は滑っていく。
    船長はクリケットさん。恐そうな顔だけど笑うと恐くないおじさんだった。
    行きは私たちを乗せて、帰りは先に島に入ってる組をのせて帰るそうだ。
    そして四日後に迎えに来る。

    ナミは潮の流れがみたいと船首に行ってる。一緒に行ってみたものの下を見たら目が回りそうで帰ってきた。
    お日様がちりちり痛い。日焼け止めはいつものより強いのをしてても効かないのかもしれない。デッキの影に置かれた椅子にビビは座り込んだ。

    そのまま椅子の手すりに肘をおき、その上に顎をのせる。テラコッタさんがいたら怒るだろう姿勢だけどここでは誰も何も言わない。
    ビビは一通り全員の顔を見たとおもう。船内見学会に参加したのもあの女を捜すためだった。この船には乗っていなかったと言うことはもしかしたら今回のキャンプにあの女はいないのかもしれない。
    だとしたらがっかりだけどこのキャンプを何とか楽しまないと・・・けどそれも気力が入らない。


    いきなり顔が目の前にあった。
    「きゃぁ!?!」
    さっきの、ルフィだ。
    もの凄く大きな丸い目が私を目の前で見てる。
    真っ黒の瞳。奥底まで覗かれそうなそのまっすぐさ。恐い。まるで自分の中まで透かし見られそう。
    ビビは思わず顔を退いた。

    「なんで んな顔してんだ?また最初っみてぇなブスだぞ?」

    何で貴方って人はいつでももの凄くいやみなタイミングで出てくるの!?
    しかも!
    私が変なこと考えてる時にばっかり!

    「私の顔なんだから放っておいてちょうだい」
    「そんな面じゃつまんねぇぞ。だって・・・いまから冒険なんだぜ?」

    冒険?ただの子供みたい。
    馬鹿じゃないのかしら?

    そんなお子様は私の事なんて放って置いて頂戴。これだから子供は嫌なのよ。
    そう嘯こうとしたがこのルフィは身体が柔らかい。回り込んでまだ顔を覗き込みに来る。
    「おめぇ、変なこと考えてねぇか?それともほんとに馬鹿か?」
    「なっ!」

    うるさい!なんてことばかり言うのよ!
    貴方に嫌なことばかり言われてもう、吐きそう。
    なんだか本当に気持ちがわる・・・・。

    胃から酸っぱい物がこみ上げた。
    「やべ!だいじょ-ぶか?おいウソップ!」
    誰か他の子が袋をくれたみたい。けど顔は良く判らない。目の前も暗い感じ。

    「船酔いか?」
    「違っ・・・・・」
    ・・・私はあんたもこのキャンプに参加する誰とも違うのよ!




    空と海の狭間で-10

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/07/23(月)
    「着いたぞ~~~~~!」

    空は青く澄み渡り、爽やかではあるが熱い風が頬をなでていく。風の行き先では椰子の木の葉がざわざわ揺れている。まだ青いけど大きな実が小さな実がついている。
    真っ白なビーチが島の左手に広がってその先にバンガローが見えていた。島の側、海は碧い。エメラルドと称されても良いくらいの海の色。家の近くの海とは色相が全然違う。同じ海だなんて思えない。
    誰もが興奮も嬌声も抑えられない。ルフィは降りる前からヘッドやマストに登ろうとして怒られていたし、やや老け顔で並べばちょっと大人なゾロですら童心に返った目が輝いている。

    もちろんナミはさっきのゾロの言葉には腹も立ったけどこんなに素敵な光景が広がってるときにそんな顔なんて見たくもない。頭の中で奴の顔を踏みつけてる自分を想像して下がりきらない溜飲を下げて忘れることにした。

    真横のビビの顔も紅潮している。どうやらさっきの真っ青な顔は船酔いだったみたいで、もらった薬は効いてるみたい。今は吐き気もなさそうだ。小さいルフィがビビを背負ってきたときにはびっくりしたけどビビはビビで何かに怒ってる様子だ。ビビが怒るとへそが曲がって黙るから今は詳しく聞きにくい。けど元気みたいだから良いか。
    「あそこに泊まるのね!?」
    バンガローは南の島特有の平たい天井だ。嵐に強く風にも強い。そしてそこから平らにのびた茅葺きの庇が良いアクセント。緑の中に浮かぶ建物に遠くには縄が見えたり熱帯樹の間の高台には広場も見えた。
    誰もが当然興奮気味だ。
    静かな水面に船は滑る様に港に着いた。




    船に乗っていたのは後発のキャンプのメンバーが20人強くらい。
    入れ替わって先発の組が代わりに名残惜しげに港に待っていた。こちらはどちらかというと子供の数よりもスタッフの方が多く見えた。車椅子が今回よりも多く見える。学校に行っていない子供用に組まれたもので、内容も本当にスローな物ばかり。
    今回の参加者の半数は一見元気に見える。もちろん病後明けの子供--たとえばルフィのような子供に比重を置いているから考え方は違うのだろう。
    (何でまぜないんだろう?)
    ナミの脳裏にちらりと疑問がよぎった。

    そして思ったより沢山のスタッフも入れ替わる。全員というわけではないがボランティアの強みで弱みなのだろう。どちらにしても若い人が多いが荷物も多い。その入れ替えだけでもかなりの時間を要する。




    まずは船から皆が降ろされる。
    「俺が一番乗りだ!!!」
    ルフィが荷物を抱えず飛び出した。
    「おい!キャプテン!忘れモンだ!」
    ゾロが船の上からルフィに目がけ赤いバッグを放り投げた。ゆっくりと放られたそれはゆるゆる回転しながらルフィの手元で加速する。
    どさっっ
    「こらーーー!アブネェだろうが!!」
    本物の船長の怒声とルフィが荷を受け取ったのはほぼ同時だった。
    「いっけねぇ!逃げろっ!」
    ウソップが一斉に走り出している。続いてゾロが飛び出した。
    「だから男子って!」
    「困ったガキだな」
    サンジが肩をすくめて荷物を肩にかけてゆっくりと降りてゆく。
    同じくらいの歳でも落ち着いてる奴もいるんだとナミが見ているといきなり方向転換して船に戻っていった。
    「いけねぇ!忘れモン! 海パン!」
    三言目が聞こえて吹き出しそうになった。所詮男子。どれでも同じかもしれない。期待もしないし失望もしない。ただ馬鹿を見る目つきを前方の港に修正してナミは自分の荷物を持って降り立った。

    今まで揺れていた船の振動が大地の安定した熱気にかわり、大地から足に力が伝わる。
    海の上の優しく爽やかな風と違う大地の熱さ。けど、島を渡る風は海と同じように優しい。
    まるで島全体に歓迎されている気持ちになってナミは目を閉じて両手で風を受けた。


    「・・やっぱり居ないし」
    横でビビが肩を震わせて呟いた。
    「誰が?」
    「あの女」
    「ああ!・・ごめん。」
    海の碧さに彼女の目的とやら忘れていたことは続けなかった。ビビがまたいつもよりぴりぴりしている。
    きっとにらんだ顔はこれで結構可愛いのだが、それを言ってはもっと怒る真剣さが全身ににじみ出ている。

    ナミはその細い指でビビの広めのおでこをはじいた。
    いくらそれが目的でも、ね!
    ほら厳しいおでこをしてるけど少しマシになった。大気や温度で鼻にも島の薫りが届いたようだ。さっきの班長ルフィじゃないけど楽しまなきゃね。ナミは思わず鼻歌が浮かんでくる。
    「ナミさんこそ、もう忘れ物はない・・・・・きゃああああああああああ!」
    言ってる横から戻ってきたルフィが脹れるビビの真ん前に捕まえたばかりのオオトカゲを見せたから悲鳴と先生達の怒声で一時大騒ぎになった。


    せっかくの上陸なのにナミは溜息が出る。
    (この先大丈夫かな?)









    「まずオリエンテーションじゃー!ルフィ君は縛られとるからそこで聞いとれよー」
    「何で俺だけっ!」
    「やかましいっ!脱走する猿には縄がいるんだ!本来は怪我人に使う奴なんだよっ!」
    先生が一人怒ってるように見える。その横でウソップのように鼻の高い先生が愉快そうに笑ってた。
    「ひっさしぶりにパウリーの技がみれたのーー」
    「いいから!これ!取れよ!」

    すぐに開け放たれた広い部屋に集められた。ルフィは柔らかくて太いマジックテープで止めるタイプのバンドで縛られて前にいる。建物に入る前に『も』ルフィが一悶着起こしたらしい。
    「落ち着かない奴ねー」
    ナミが一くさり小声でぼやいた横でビビはきょろきょろと落ち着かずに指をかみ始めたので今度はナミが頬を指でつついた。


    「このキャンプの目的は、『決して無理をしない』ってことです。私たちは、一通り皆さんが満足できる様にメニューを組んでいますが、無理な人は遠慮無く言いましょう。今日の予定は日よけの帽子を作ろう、と海辺の散策に別れます。明日はたき火で御飯を炊いてカレーを食べましょう。食事に制限のある子達はその範囲での調理をやりますので心配しないでください。そして船に乗っての島巡りはあさってです。夜にはキャンプファイヤーもありますので楽しみにしていてね!そして一番大事なところはくれぐれも一人で出て行かない様に!それからこれも一番大事ですよ!毒を含んだ生き物も居ます。むやみに触らない様に!聞いてます?ルフィ君!・・・・」


    先生の説明が長く長く続く。
    一番大事なことがこうもあったら覚えきれないではないかとナミはおなかの中で呟いた。
    こんな南国に来ているのだ、わくわくしないわけがない。その間も窓から見えるのは青い空に南国の色とりどりの花。
    飛んできた極彩色の鳥にルフィは転がって追いかけてまた縄でスタッフに取り押さえられていた。ウソップは逆に膝を抱えたまま固まっている。ゾロは話の途中からやっぱり寝ているし、サンジはにやにやと頬を緩めてる。視線の先は女先生達。彼の評価はちょっと見直してはまた下げる。
    ナミは小声でそっとビビに内緒話をする。
    「班の運だけは最悪かも」
    「ちょっと同感」
    「あいつらには構わないようにしようよ」
    「そうね」




    「それでは担当の先生をご紹介します。ただ基本的なだけで専任って訳じゃないので何処でも誰でも声をかけてください。班の人数がバラバラですが、それぞれにあわせた決定だと思ってね」

    介助の居る車いすの子供一人とそういった物の要らないナミ達では掛ける人間のバランスが違う。
    このキャンプでは誰でも手伝いが必要なら堂々とお願いするのがここのルールだと言われて頷いた。誰でも簡単なことでもヘルパーを頼んで良いそうだ。ということはどうしても補助の必要な子供に優先的にスタッフがゆくとなる。つまりナミ達は結構自由かもしれない。決められるよりは思いやりにあわせて流動的に。生徒もスタッフも皆協力する、そのバランスが大事なのだ、と先生が説明を続けた。

    「だからといって遠慮も諦めも駄目ですよ。やりたいことは一杯頑張ってみましょうね。私達も精一杯お手伝いしますから!」
    副リーダーらしい黒髪で眼鏡の先生がだめ押しのように付けた説明で皆声の調子を上げた。

    「はーーーい!」
    「可愛い先生とご一緒なら頑張りま・・・」
    サンジの声は入ってきた先生達に注がれて続かなかった。
    「では今回の先生達です」

    入ってきた人達を見て,さっとナミの背後のビビが固まった。









    自己紹介した眼鏡のたしぎ先生が一人ずつそれぞれの紹介を始めた。マイク付きだから他の話もよく聞こえる。
    「そして最後が・・・ちょっと遅れてましたけど今入ってきてくださいました。ロビン先生です。先生は医学部の三年生です。大学の前に外国で心理学の研修も済まされている素敵な先生です。この班を中心にお願いしてありますからね。この班は6人でちょっと多い方だけどみんな身体に問題は少ないもんね。遠慮なく悩みとか気持ちの相談もしてみて下さいね。」
    サンジが芯から大喜びしている。踊れといったら天に昇って踊りそうだ。

    ナミはロビンの顔をしげしげと見つめた。
    写真よりも綺麗な感じがする。少し寂しそう?
    一瞬だが視線が合い、にっこりされてドキドキした。
    けどその反面、横のビビの顔は見るのが怖かった。視線だけでたどってみてはその気配に帰ってくるのが精一杯。躊躇いながらできるだけゆっくりビビの方を見た。
    ビビは射殺せそうな視線をわずかに下に隠してロビン先生の一挙一動を追っている。指は硬く握られて口元は真っ白になるまで引き結んでいる。


    「皆さん初めまして。ニコ・ロビンです。この四日間楽しく過ごしましょうね」
    ロビン先生は見渡した。誰も目をそらしたまま答えない。
    ロビンはそれ以上答えを待たずに続けた。
    「口も身体も固まってるみたいですね。では、私からの提案です。慣れないことをするときにはいっそ新しい役割になりきってしまうのも一興よ。ということで呼ばれたい名前で呼ばれてください。さぁ、考えて!」
    「ええ~~~~?!?」

    正直。おとなしめの美貌に静かな人だろうと思った。 それは裏切られた。
    満面の笑み。からかう様な微笑み。いたずらに満ちた瞳が紫から赤っぽい瞳に絶えず色を変える。
    せめてトラブルの無いように無理難題など言わない理性的な人だろうと思った。 これも裏切られた。

    そうしたらもう、そのままを受け入れるしかないじゃないの。



    「俺!」
    すくっと左手のつもりの肩が挙がった。
    まだ縛られてたままだった。
    「俺は船長!」
    誰の予想に違うことなく・・・ルフィだった。

    「あらあら」
    ロビン先生が後ろに回ってた。
    「さて船長さん?」
    見事な縛り方だ。二本くらいしか捲かれてないのにルフィが全然動けてない。
    「名前が付いたなら外すわよ。けどその前に二つだけお願いがあるの、聞いてくださらない?」
    「わかった!だから早く!取ってくれ!」
    「ええ、お願い。一つは先生達の言うことには必ず本気で返事をしてくれる?」
    「おう!」
    「それからもう一つ。これから何をしに行くのか必ず誰かに教えてね。この二つ」
    「いいぞ!」
    「約束よ」
    外すロビン先生はまるで手が何本もあるように見えた。

    外れた途端飛び出そうとしたルフィをやんわりと、けどしっかりとロビン先生は押さえ込んでいた。
    その技に思わず拍手が出る。
    「約束は守りましょ?」
    これは適任かも。誰もがそう思った。

    「あ、じゃぁ!俺は料理人!飯の方は任せとけ!
     んでロビンちゃんには『コックさんv』って後ろにハート付けて呼んでください!」
    そう言うサンジの方が目も腰の振り方も器用にもハートだ。
    「阿呆か。」
    ゾロは心から楽しげな二人に背を向けた。
    「好きにしろよ。あんたにどう呼ばれても関係ねぇ。」
    無礼者だ。とりつくしまも礼儀もなってない。

    めまぐるしいルフィも、まるで大人みたいなサンジも不思議だ。だけどナミはちょっと不思議な今のゾロが気になった。駅ですっきりとありがとうを言ったゾロの笑顔はどこへ行ったのだろう?
    船内でも騒ぐでなし、かといってルフィの取り押さえとかは言われたわけでもないのにすんなりやってたし。
    そのわりにあまりやる気もなさそうだし、荷物に竹刀まで入ってて運動も出来そうでおよそ病気とは縁がなさそうに見えるし。
    人のことは無礼にも程があったけど。
    何故こんな所にいるのか?



    「それから……女の子達は?」
    ロビン先生は振り向いてナミの方を見た。ナミの物思いは視線に破られた。自分は一体どう接すれば良いんだろう?ビビの手前馴れ馴れしいのも可笑しいしかといって理由もないのは本当はあまり好きじゃない。
    「えっとーー。そうだなーー。んーー、いいや。特に要らないから名前でそのまま呼んで。」
    職業名というのは面白そうだがあいつ等と同じレベルで良いの?と思う気持ちもある。


    「じゃぁナミちゃん、ね?では・・。」
    「私のことは『ミス・ウェンズデー』と呼んでください。大人の人が勝手に馴れ馴れしいのは苦手です。」
    もの凄く冷たくて鋭い声だった。

    ルフィも、サンジも、ウソップも、さしものゾロもビビを見る。


    先生は手元の書類をちらりと見直した。
    「・・ではご希望通りにお呼びしましょう。ミス・ウェンズデーよろしくね。」
    ロビン先生は初めてその右手を差し出したがビビは気付かないふりで横を向いた。
    「後はウソップ君?」
    「ほら!あんたよあんた!」
    場の変化に何となく焦ってしまいナミはそのごまかしを脇にいたウソップの肩をドンと叩いた。
    「・・!」
    彼は声も出ないほど飛び上がって脱兎のごとく逃げだそうとして転んだ。
    「え!?なんで??」
    「あー貴方はちょっと話すことが苦手なんだっけ。じゃ、話すときは私の目を見ちゃ駄目よ。石になっちゃうわ。私魔法使いだから」
    うふふふと笑う声にどうも変わった人だと思う。学校の先生とはまた雰囲気が違う。

    その笑顔にサンジは大喜びし、ルフィは魔法が使えるのか??としっつこくきいてまわって、ビビは黙って睨むばかりだった。







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