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    蜜柑狩 '13ナミ誕
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    空と海の狭間で-16

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/08/04(土)
    (三日目夜)



    雨がたっぷり降ったから緑の甘い臭いがいつもよりももっと凄い。その緑がどんどん濃くなって宵闇の紫に変わりゆく。その紫も濃くなって少しずつ闇が広がり島は闇に包まれる。空は抜けるように星が瞬いている。昨日から遊んだ森の中からは闇の中、ほうほうと鳥や虫の息吹を伝えてくる。
    手を取り合ったり車椅子を押したり、この三日間で馴染んだお陰で班で固まって飛び出てくる者も、ゆっくりと来る者も気分はそぞろ浮かれてる。
    今日の昼過ぎまでの雨の分、キャンプファイヤーをじりじり待つ気持ちが全体で大きく渦を巻いている。
    仲良しになった誰かと思い思いの場所に陣取ってざわざわとした期待の渦の中、一番年のいった先生がマイクを握った。

    「皆さん!これが最後の行事になります。
    明日、皆さんはおうちに帰ります。
    来たときにはそれは不安だらけだったみんなの顔が、今ぴっかぴかになったことを先生はとっても嬉しく思います。
    あなたたちは未来の住人だ。限界など知らない。やりたいことは何でもできる。
    ここはその第一歩です。おうちに帰ってからもここで貴方たちが出来たことを思い出して、そしてもっと元気になってください。」

    深く、軽く。重く、静かに。じんとした感動が皆に伝わる。
    皆、この三日間の短い間だったけどそれぞれに何かを感じて身のうちに蓄えているのだ。




    点火の準備が進んでいく中、一人の影がすっと立ち上がった。
    「ゾロ?」
    「悪ぃ、小便」
    「すぐ始まるぞーー裏の林ですりゃいーじゃん」
    「ルフィさん!そんなこと言っちゃダメですよ。ちゃんと手も洗ってきて下さいね」
    「いーじゃねぇか!ぼうけんに言ったら手洗いなんて無いぞ!」
    「しーーだまっとけルフィ!」

    真剣さを含むビビの声もルフィの笑い声も混ざって合わさって一緒に歓声に変わる。最初喧嘩してたくせにいつ仲良くなった物やら?ゾロも自分の背後で聞く声の楽しさに心が騒いだ。仲間に戻りたいと心が急かす。
    手っ取り早く・・・・と思いつつもビビがうるさいので言うことは聞いておこう。小便に手洗い。

    最初、島に来た頃はビビのほうがおとなしかった。いっそ鬱いでいる風もあったと思う。その辺りナミやサンジが面倒を見ていたのだろう。だが今は二人は離れたところで座り、ビビはうって変わって騒いでる。少々喧しいくらいで、キャンプファイヤーで興奮しているルフィとシンクロしている。
    ナミは一番向こうで黙ってるのがある意味不自然だ。隣のサンジの懸命な声掛けにうつろに答えている。らしくないとは思うがそれほどナミを知っているわけでも無いのだからそう言うこともあるんだろう。
    それより早く帰らないと点火が始まる。



    宿舎の裏手に外用のトイレはある。手洗いして水を切って履いてるジーンズで手をはたく。
    向こうの音が大きくなった。慌てて向こうを見ると振り回された木切れからどうっと火の粉が飛んだ。もっと沢山の歓声が聞こえてもっと沢山の火の粉のあがったのが見える。ちぇ、始まったか。


    パチパチと、最初は小さな小枝や燃料が燃え上がる。それらが空中に火の粉を舞いあがらせる。
    『綺麗だな』
    ゾロは思った。

    まるで燃える蛍だ。
    不思議が大好きなチョッパーにも見せてやったら喜ぶだろう。
    そう思いながらのばあちゃんの言葉が少し胸をよぎる。

    (興味があってもなくっても少し見てくると良い)

    今回のメンバーにぜんそくは数人いたがどいつも薬のコントロールがうまくいっていた。昔は病院に半分以上入院していた奴もいたという。うまくやればチョッパーもこういうところに連れてこられるかもしれない。確かに今のチョッパーは煙にも弱いから花火も無理だしここに居るだけでも発作になるだろう。発作が出たらすぐに吸入とか点滴とかが要るくらいまで悪くなる。だからまだ無理だ。
    けど、ここまでになれる。いつのひか。必ず。させてやる。

    チョッパーは何もかもを我慢している。その弟に何とかしてやりたいととても思った。
    心臓と喘息と。この二本柱は辛いらしい。
    あの強い祖母の見せない嘆きも本人の我慢から来る強さも知ってる。
    体が弱いからと言って自分のようにたまたま剣道が強い奴らよりももっともっと強い力をチョッパーは持ってる。


    チョッパーのために。
    そして誰かのために。
    それは自分のために。
    自分のやりたいことがキャンプファイヤーの炎で揺らいだ大気の中におぼろげな姿になってゆく。




    思って眺めているうちに大きな影がぶつかってきて走り去ろうとした。

    「お・・?!」
    「ごめん・・あ」
















    自分には力がないと、ずっと思っていた。
    それを察していたのだろう姉はくり返してくり返してでも立った一人で言い続けていた。


    「母さんはあんたを大好きだったんだよ。ああしなかったらその方が怒ってるよ」


    静かに優しい瞳で語られるその言葉。
    大好きな姉の言葉を疑うことなど一度もなかった。
    それなのにこの言葉だけは 信じられたことはなかった。





    辛いことがおこると無意識に肩の傷をかきむしってしまう。ナミの火傷は幸い左肩の大きな傷を残して他はわかりにくくなった。
    見られたくない気持ちと見たくない気持ち。そこはいつも、いつも包帯で巻いて服で隠してある。
    スタイルには自信があって、足や体幹に傷が残って無いから短いスカートやパンツで足を出し、いっそヘソまで出すことの多いナミが肩を出す服を着ることはなかった。



    あの時。遠い昔。
    忘れられない記憶。

    ごうごうと耳の中で風と火がうねっていた。

    いつも母は仕事だったから、買い物でもなんでも一緒にいるのがそれだけで楽しかった。
    その日、買い物途中のビル火災で、逃げ遅れた自分を見つけたときの母の泣きそうな顔は忘れない。
    母と一緒に脱出しようにも火の手は周囲からあがりもうもうと襲い来る煙で全く見えなかった。
    僅かな隙間の空気を吸いながら隣の部屋に逃げ込んで、同じ状態の部屋で、天井からぱちぱちと火の粉と一緒に大きな固まりが落ちてきた。
    窓際の机の下に逃げ込んで母はいつもの笑顔でこう言った。

    「ナミ?大好きな蜜柑みたいに丸くなってごらん。手も足も蜜柑にはないよ?ほら。やってごらん。」

    母の笑顔はいつもの笑顔だった。大好きな、母さんの笑顔。
    ごうっと熱い物が来て母の呻き声とその机も吹き飛ばされた事もまだ覚えている。
    母は覚悟を決めたのだろう。丸くなった私を抱えて走り始めた。
    焼け落ちてくる炎に包まれた天井。母は全身で自分に覆い被さって何度か身体を震わせる。

    「おかあさん、こわい」
    「こわくないよ」
    「おかあさんいたい?」
    「いたくないよ」

    母の声が優しくて恐くて・・記憶はここまでだ。
    背中側の半分と両足を炎に焼かれながら母が自分を抱えて焼け落ちる寸前の窓から飛び出したことは後から聞いた。
    落下の傷と火傷がナミを庇った以外の母の全ての肌を深くまで焼き尽くした。

    そして、母は私のために命を落とした。











    身体の皮膚と芯を揺さぶる焼け焦げる臭い。ぱちぱちとはぜる音。揺らめく火の動き。

    どれもがあれから5年を超えた今でもナミの動きを封じ込める。身動きできなくなる。


    例えばろうそく程度なら我慢できる。それくらいにはなってる。
    それでも小さなたいまつも、ガスコンロも得意ではない。
    ゆれる火の粉も炎も辛い。

    だが。

    キャンプファイヤーがあると判っては居たけど席も遠いし人も沢山いるから何とかなりそうに思ってた。逆を言えば遠くに大きい炎があることを判ってて一人でいる方が恐いからここまで来た。
    ビビとケンカした後だけにキャンプファイヤーに参加しないで一緒に付いていて欲しいとも言えなかった。それにあいつらの騒ぎがもっと楽しいだろうと想像したが、もう小さな火をくべられたときから湧き上がる唾が押さえられない。身体は硬くなる。
    押さえなきゃ。みんなといるんだし。倒れちゃダメ。
    ナミはごくんと唾を飲み込んだ。余計に吐き気が強くなった。

    わーわーと遠くで声がする。
    遠くの声が反響する。
    ナミの中でわんわんと響いたただの音は遠くなり・・ナミの意識も遠ざかる。
    火のことは考えない方が楽だから意識なんて手放すのは簡単だ。こう思っちゃいけないのに。

    だめだ。

    やっぱりこんな大きな火は恐くて仕方ない。動けなくなるその前に。
    「あたし・・忘れ物・・取ってくる」
    「ナミさん?」
    「ナ・・ナミ?」

    横で気を遣ってくれてたサンジ君が付いてこようと腰を浮かしたので手で止めた。こんな姿は見られたくない。
    皆に微笑みかけて軽く手を振ってナミは逃げ出した。
    多分これでばれないとは思ってる。なんて小心なアタシ。

    その横から呼吸が荒くなる。口の中が気持ち悪い。
    遠くまで逃げなきゃ。それもうんと遠くまで。

    ナミは必死に逃げ出した。













    ぶつかってきたのはオレンジの髪だった。

    「お・・?!」
    「ごめん・・あ」
    「すまね・・・なんだ?ナミ?」

    ナミだ。
    だけど昨日よりもずっと顔色が悪い。
    まるで発作の時のチョッパーみたいだ。もちろんチョッパーは苦しそうで真っ黒に近くなるし、それに比べるとはぁはぁ言ってるがずっと白い。変なのは間違いない。

    そう言う奴を一人にしてはいけない。ナミが倒れそうにも思えて思わず手を引っ張った。

    「!・・はなして・・。」
    「ダメだ、今度こそ先生呼ぶぞ。お前も喘息か?呼吸(いき)が止まったらやばいだろ。」
    「やめてよ・・違うから・・」
    捕まれた腕を振り払おうとしたナミの呼吸が更に荒くなった。
    はぁはぁと制御がきかない。
    短く激しく。呼吸が止まらなくなる。
    そして足にも手にも力が入らなくなった。

    身体が落ちる。

    「おい!ナミ!」
    ゾロが手を出したが間に合わず身体は下に崩れた。ゾロが握っていた手だけ離さずいてくれたおかげで頭は打ち付けず大丈夫だった。
    彼女の頭ごと木の下の草地まで崩れるのを何とか横にすると
    「おい」
    声を掛ける。答えは返ってこない。だが何かを呟いてる。

    「・・お母さ・・・・・・・・・・・・・」
    ナミらしからぬ変な声だった。ナミも判ってる。意識はなくした訳じゃない。力が入らないだけ。なのに止まらない。
    「・・や・・いや・・・・・火・・やだ・・・怖い・・」

    ゾロは慌てた。かっとしてくる。これは・・ほとんどうわごとに近い。
    呼吸が荒い。もの凄く激しい。見るからにおかしい。


    火?

    思い当たるのは・・キャンプファイヤー?
    前のは竈の火?
    こいつ?!火がダメなのか?



    今も顔色は真っ白。独りで走ってきたところを見るとまた辛くなったのに誰にも黙って無理したんだろう。
    こいつはいつもそうだ。

    「なんでだ?こんなでキャンプファイヤーになんて出るな!!前ん時も火か?ダメなら最初ッからやめとけ!」

    具合の悪い奴に怒るなっていわれてる。やっちゃいけないことは判ってる。
    けど言わずにいられなかった。

    「自分で自分を悪くすることねぇだろ?何も答えられないくらい悪いじゃねぇか!」

    前回よりも具合の悪そうなナミを見ると落ち着かなくなる。
    けどゾロは何も出来ない。これじゃ前みたいに側にいてやればいいわけじゃない。
    何もしてやれない。出来ないのに怒ってしまう。

    自分は最低だ。







    ナミの意識はしっかりしていた。体に力は入らない。手も足も言うことを聞かない。口は勝手に何か言ってる。それでも意識はある。
    だからゾロのやることを見ていた。

    ゾロが怒ってる
    だって。
    一緒にいたかった。
    みんなと居たかった。
    こんなに楽しそうなのに一人で部屋にいるなんていやだった。
    泣くつもりなんて無いのにどんどん涙が溢れてる。
    「ちっっ」

    ところがゾロはそのまま立ち上がって駆け出した。
    驚いたし、ちょっと待ってと言おうにもおかしい。口が動かない。


    一人で放置されてしまうと寂しくなるし恐くなる。どきどきが強くなってもっと恐くなる。呼吸もハアハアともっと苦しくなった。
    こんなになるならキャンプファイヤーなんて無視すれば良かった。もうちょっとあいつらを眺めてみたかったなんて思わなきゃ良かった。こんなにあたし寂しいし辛いのに一人でほっていくなんて、ゾロの馬鹿!冷血!この間みたいにちょっといてくれたらあたし治るのに!

    今度は力も入ん無いしそれに病人をこんな所に捨ててく事無いじゃない!

    「おーーーーい」

    数人の足音が響いた。

    先生達が来て一気に診察されて小さな袋をくれた。それを口に当ててゆっくり息を止めるように言われた。驚いたけど言うとおりにしたらどきどきも苦しいのも少しずつ収まってきた。

    「ロロノア君?ナミちゃんは大丈夫だから。ありがとう、もう良いよ。あっちに参加していらっしゃい」
    先生の独りがゾロの肩を優しく押して言ってる。
    ずっと端っこで見ていたのは知ってる。なんどか大丈夫だからキャンプファイヤーに戻るよう促されたがずっと居た。居てくれてた。
    怒ってる?さっき怒ってた。きっと怒ってるよね。なのに居てくれたのは優しい奴だからだろう。

    軽やかな足音が遠ざかる。ゾロは出て行った。私の中にあったかいものが消えたような喪失感だけが残った。


    先生の声は優しく聞こえてる。
    「急いで呼吸しなかったら大丈夫よ?キャンプファイヤーに戻る?戻れるくらいには直になれるわ。大丈夫だから」
    ナミは首を横に振った。体は少しふらつくけどもう大丈夫。
    「保健室で休みます」
    「それが良いわね」








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    空と海の狭間で-17

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/08/04(土)
    「雨が来る」

    「え?どうしたの?大丈夫?」
    保健室で論文片手のヒナ先生もキャンプファイヤーに参加したかったろうに。だから申し訳なさで身が竦む。
    「はい。ご心配おかけしました。もう大丈夫」
    「ホントに?無理しちゃ駄目よ。もし今でも元気なら多分大丈夫だけど・・」
    「本当に大丈夫。先生も用があったら行ってきて下さいね」
    「私は別に構わないわ、イベントにはあまり興味も・・・・あら?本当に雨?」

    窓ガラスにぽつんぽつんと降り始めた雨は粒の大きさを増して一気に戸を叩く。キャンプファイヤーの方からキャァキャァ言う声が聞こえる。夕立みたいな物だからじきにあがるだろう。

    「明日には帰るのね。最終日が雨だったうえにキャンプファイヤーは残念だったけど、他は楽しかった?」
    「・・ええ」
    期待などしていなかったのに面白い馬鹿にばかり出会った。ここに来なければ知らなかった連中ばかりだ。楽しい想い出が出来た。
    ただ二つばかり残念だ。

    ゾロは案外良い奴だったのに最後に怒らせてしまった。
    最初の印象が最悪だったのにさっき怒られて気がついた。自分は良い奴だと思ってた。怒られたくなんかなかった。
    遠ざかる足音がなんだかいつまでも聞いていたかったのに。

    そして・・ビビと喧嘩した。

    ビビが諦めさえすればもっと楽しいキャンプだったろうと思ってしまう。嫌なことをビビのせいにしてしまいそう。
    そこがなにより辛い。
    せっかく大好きなビビと来ていたのに。
    自分は姉と仲が良いだけに頭の良い彼女がどうして理不尽な所にうじうじしているのかは判るような気はしていたが、やはり良く判らなかった。だから言わずには居られなくて・・。
    挙げ句の果てに大喧嘩であのあとは口もきいてない。



    外ではみんな必死に走って帰ってくる。濡れた頭にタオルを持ってお風呂に向かう人も部屋に帰る人もいる。
    もう、部屋でのんびりする時間だ。けどビビと喧嘩してしまったから部屋には帰りづらい。












    外ではまだ盛り上がっている最中だった
    「雨だ!」

    一番盛り上がった炎の中でいきなり大粒の雨が落ちてきた。
    南国の雨は暖かく大きいスコールだ。大きな炎も一気に叩きつぶされてしまう。

    「大丈夫よーーこれは夕立だから!」
    先生の声は慌てた子供達の声にかき消される。
    火の勢いが燃え上がる横から消されていく。あっという間に小さくなった炎をみて
    「仕方ないですね。お開きにしましょう」
    諦めた先生達の相談がまとまる前に子供も大人も蜘蛛の子を散らしたように部屋に向かって駆け出していた。


    「おい」

    A斑の野郎が4人。雨を避けて葉陰に隠れている。
    「ルフィ?」
    「チャンスじゃん?」
    「船の問題は?」
    「さっきもフランキーが準備万端って自慢してたから大丈夫。な、ウソップ!」
    ウソップは自分の小さなバッグから金属製のプレートのようなものを取り出した。
    「か・・か、鍵だ・・ほ・・本物だ。」
    「サンジは弁当の準備できるか?」
    「それは任せとけ」
    「お前ら・・本当に行く気か?」
    ゾロが一番遠くから言う。
    「今夜じゃないとダメだ。だって明日には帰るだろ?」
    タイミングは今夜しかない。

    「夕立って先生が言ってたからもう止むだろうしな。けどそのラフテルに行けば願いが叶うって本当か?」
    サンジが聞けばゾロが混ぜ返す。
    「どうせガセだろ?」
    「なんでも良いよ。俺は、行くんだ」

    ルフィがきっぱりと口にした。ルフィがそう言ったら決して奴は自分の矛先を変えない。

    「行かせても怒られるし、行っても怒られる。なら良いだろ。つきあうぜ、船長」

    ゾロの言葉に、にやっと4人は笑った。
    「じゃ、見回りが終わったら順番にトイレとかででて・・ここに集合な」








    夕立の雨はいつも暖かくて重い。今日の雨はなおさら。南国だと粒まで大きいみたい。
    ナミさんと喧嘩してしまった。あれから一言も口をきかないどころか目もあわせにくい。一緒の斑だけに顔を合わせないわけでもないから余計に辛くて痛い。
    でも、あの人には・・ロビン先生には会いたくない。

    キャンプファイヤーでルフィ達と居るのは気が紛れて楽だったけど、今はそれともはぐれた。

    先生達は車いすの子とか火の加減とか気になる事が一杯らしい。ビビみたいな健常人は構って貰えない。
    そして雨はもっと強くなってる。
    慌てて帰る一団に遅れたら置いてきぼりの迷子みたいに惨めな気持ちになった。

    雨は痛いくらい大粒で体に当たると痛いような気持ちがしてくる。これなら昼からだって止まないでくれたら良かったのに。そうしたらナミさんとのケンカも洗い流してくれたかもしれないのに。

    気分は踏んだり蹴ったりなキャンプファイヤーだ。今からなら葉陰に隠れて夕立をやり過ごしてから帰った方が良いかもしれない。そう思っていたら目の前を走っていく連中が居る。

    「ルフィさん?」
    「よぉーー!ビビ!!」
    ルフィだけが止まりビビを覗き込んだ。

    「さっきいったろ!お前も冒険に行かねぇか?」
    「冒険?」
    そう言えばキャンプファイヤーの時にいってた?
    ルフィは本当にお子様だ。最初からこれで、最後もこれ?

    だけれど今はそんなきぶんじゃない。付き合ってあげる余裕なんてない。
    ナミさんとはまだ仲直りできてない。もしかしたらこれからずっと仲直りできないかもしれない。
    自分は・・言っちゃいけないことを言った。
    辛くて、寂しくて、持て余して止まらなかった。
    本当はあんな事言うつもり無かったのに。
    ナミさんにあんな事言われたくなかったのに。

    「その変な顔も行けば治るぞ」

    いつの間にか真っ正面にルフィの真っ黒の瞳。
    鼻息がかかるくらいの側でニヤニヤ笑ってる。
    奥底まで覗かれそうなそのまっすぐさに自分の中まで透かし見られそうで思わず頸を横に振り視線を避けた。

    「私の顔なんだから放っておいてっていってるじゃない!」
    「そんな面じゃつまんねぇぞ。だって・・・今からやるのは最後の、本当の、冒険だぜ?」
    本当の冒険?
    これだから子供は・・
    そう嘯こうとしたがルフィは回り込んでまだ顔を覗き込みに来る。
    「ナミはどこだ?あいつにも言おうと思ってたんだけどよ」
    きょろきょろ見渡してからルフィさんは私の手を握るとそのまま離さず連れていく。
    「離して」
    「駄目だ」
    「どうし・・」
    「お前逃げそうだもん」
    「逃げる?」
    なんで私が逃げるの?それをどうしてルフィさんが押さえてるの?
    「おめぇ、何から逃げたいんだ?」
    何から?

    えっと・・・。
    真っ黒の瞳。
    無限に広がるみたいな深い色。
    ここになら全部口も情けなさもこぼしてしまえるような気がした。

    「私、ナミさんとケンカしちゃったし」
    「なんでだ?」
    「なんでってそりゃ・・・言いたくないわ」
    いくらなんでもこれは言えない。
    絶対に言えない。
    大体ルフィさんに関係ないじゃない。

    「おめぇ、やっぱ馬鹿か?」
    「なっ!」

    違う!なんて言葉なの!?・・・私は
    ・・・・なんて言ったらいいのか?

    ええっと、いったいなんて言えば良いんだろう?

    「ケンカはナミのせいか?」
    ルフィの言葉は真っ直ぐ突き進む。

    え?

    あ・・そうじゃない。ナミさんのせいじゃない。
    だってナミさんが言うのは・・まちがってない。
    私がまちがってるわけじゃないけど・・でもナミさんは、ナミさんのせいだって言うのは間違いよ。ええ。

    「誰も悪くないわ。だから腹が立つんだわ」
    うん、きっとそう。
    ルフィは不思議そうな顔で雨に打たれてる。帽子があるから顔は濡れてないけどつばから雨が流れ落ちてる。
    そのつばの中にまで顔が近付いてきた。最接近だ。

    「お前、ナミが嫌いか?」
    「え?なんで?」

    反射的に答えてた。なんでそう言う質問になるの?

    私がナミさん嫌いになるわけ無いじゃない。
    ぽかんとなって顔に力が入らない。

    ルフィはその呆けた私の顔をじっと見つめていた。見つめ続けた後にニカッと笑った。
    「だろ。なら大丈夫だ!なんとかなるっ!だから一緒に行こうぜ!もちろんナミもつれて!じゃないと」
    「じゃないと?」
    「ゾロが迷子だ。」
    「誰が迷子だ! けどお前いけるのか?」

    ゾロの目はビビを見ていなかった。どちらかというと建物の方を見ている。
    「ビ・・・ビビ?」
    「ビビちゃん?」
    心配そうな残りの四つの瞳がこちらを見てる。


    色々な人の顔がぐるぐる回る。彼らの言いたいことは判る、正しい。
    だからといって自分が同じじゃなきゃいけないなんてそれもおかしい。
    このまま何もかもがうまく行かない気分になる。

    「行くわ」



    唐突に口から出た言葉は私の胸にすとんと落ちた。
    行ったら、この気分も晴れるかも。
    うん。

    「でもどこへ?」
    ルフィはにやりと大きな口で笑った。















    雨は世界を黒く染める。

    「ロビン先生?」
    突然の雨に車椅子の子供が一人、椅子ごと転んだが大事にならなかったと聞いた。無事でよかった。怪我は一番恐い。
    タオルを頭に被ったままロビンはぼんやりしていたらしい。
    スタッフの反省会を終えたたしぎ先生が覗き込んでいる。彼女はこのキャンプスタッフ数年の経験を持つ。子供にも父兄にもかなりの人気と聞き及んでいるが裏切らない柔らかな清潔感ある微笑みだ。手の中には湯気の立つカップが二つ。彼女は一つをロビンに差し出した。
    「お疲れですか?慣れないと子供の相手って大変でしょう?」
    「いえ、それほどでも」
    答えてはみるが冴えない。ロビンの濡れた髪から流れる滴が一つ、また一つと顎を伝って服に落ちる。
    「・・たしぎ先生?子供に嫌われないのって難しいですね」
    たしぎ先生は目を見開いた。さも驚いたように軽やかに笑ってる。
    「おや?先生は子供達に人気ありますよ。『話を聞いてくれる綺麗な先生』。羨ましいですね、私の評判とは大違い」
    微笑んだ姿は私を励まそうという気持ちばかりが伝わってくる。

    でも・・

    「つい・・が気になって余計なことばかりくり返しては怒らせているようです」

    自嘲気味な低い声は雨の闇の世界に溶け込んで融合する。やはり自分のごとき闇が光と交わるのは無理なのだろうか。
    ぱたぱたと足音が駆け込んできた。
    「ロビン先生、ちょっと。確認してきてもらえます?」
    「はい?」








    「失礼します」
    「もう良いの?」
    「はい。大丈夫。もうすぐ10時ですよ?消灯時間をずっとオーバーしてるし。それに私のこれって本当は病気じゃないって言うんでしょ?」
    「・・・・」
    「原因はわかってます。でも治らない」
    「たとえば催眠療法とか試した?例えばロビン先生の方がくわしいと思うんだけど相談してみたら・・」
    「もう良いんです」
    ナミはきっぱり言った。ヒナはそれを見て溜息をついた。

    「けど今夜は無理は禁物よ」
    「はい、だって後はみんなが寝静まったところにこっそり入り込んで寝るだけですよ」
    クスクス二人で笑いあう。

    出口のドアを開けた所で入ってくる人とぶつかりそうになった。長身のその人の胸の辺りにナミはぶつかった。
    「え?ロビンせんせ?」
    「ナミちゃん?貴方一人?」
    「いえ、今日はヒナ先生がつきあってくれましたよ」
    「そうじゃなくって!」
    ロビンの顔が青い。
    「班の誰もお見舞いに来てないの?」
    「え?」

    ここからロビン先生はヒナ先生の方をちらりと見て声を落とした。それを見たヒナ先生は心得たとばかりに向こうを向いて何かの文献を開いた。これぞとロビンはナミに耳打ちする。
    「部屋にもロビーにもお風呂場にも、貴方の班の子、誰もいないのよ」
    「えーーーーー!?」

    二人ですぐに飛び出した。
    建物の中には誰の姿もなく、彼らの雨具もなかった。


    「心当たりは?」
    ナミは首を横に振った。
    「今日の夕方から、ビビとは口きいてないんです」
    「どうして?」
    「その・・今日・・ビビと・・ケンカ別れしちゃって・・・」
    「あら」
    ロビンの声には攻める意味合いは含まれていない。
    「仲良しの二人はよくケンカするの?」
    「いいえ。初めてです。だから、余計にどうしたらいいか判らなくって・・」
    心細さに鼻の奥がつんとする。でもこんな事で泣くもんか。


    「原因は・・・私の事かしら?」
    「先生!?」
    「・・・ごめんなさいね」
    ロビン先生の手がナミの頭をポンポンと撫でた。
    「でも、彼らを見つける方が先だから、とりあえず彼らごと探してからこの話はしましょう」
    「は・・はい」





    「いた?」
    互いに首を横に振る。若い先生達が何人か気付いて室内は探してくれた。だが見つからない。
    外の雨は小雨になった。けどまだ降ってる。
    他の子に気取られる訳にいかず、カク先生やパウリー先生は見回りついでにしか探せない。彼らからまさかと思うが・・と昨日のアスレチックの方面への捜索が提案された。



    まだ探していないところ。
    皆が行きたがるところ。
    それか、誰かが行きたがっていたところ。


    「もしかして!」

    ロビン先生が呟いた。ナミも頷く。
    この度の間、ただ一人、非常に行き先にこだわっていた奴がいた。

    二人が玄関に走り出ると丁度フランキーが濡れながら入ってきた。
    「おめぇら、今から外出禁止だぞ??」
    「ああ!フランキー!船から来たの?ルフィ君達を見ませんでした?」
    「いや。俺はキャンプファイヤーの後始末。サニーなら明朝の準備もがっつり終わってるし、準備万端よ?」

    "Quand meme. "
    ロビン先生が頭に手を当てて口の中で何か呪文のような外国語を唱えた。何を言ってるかは判らなくてもナミと同じ気持ちなのだけは判る。
    雨の中、ロビン先生は傘を手にして飛び出した。ナミもその後ろについて走り始めた。



    二人、傘を開いてはいるが走っているとそれらは邪魔になる。邪魔のついでにぐちょぐちょに濡れながら何も言わずに港に向かってる。

    港には今日出航予定だったサニー号が残っているとフランキーが言ってた。
    サニーはメリーに比べると小さい。少人数用の島への船だ。島巡りの参加メンバーは希望者から抽選で選ばれる事になっているのもこの船の大きさのせいだ。




    「ビビ!」
    「ルフィ!」
    「何、馬鹿なことやってんの!?」
    声が響いた。




     

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