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    蜜柑狩 '13ナミ誕
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    空と海の狭間で-18

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/08/12(日)
    キャンパスを通りゆく秋の気配を含んだ風は肌に心地よかった。校庭の樹木も少しずつ色を変えつつある。その色彩は故国の秋を思い出させてくれる。
    大学は二期制だ。夏から始まる学科は一月もたてば落ち着きを見せる。授業やレポートがそれなりに忙しいがそろそろペースもつかめる。サークルやクラブにと友人も増えて楽しい時期らしいがロビンはそう言う物とは無縁だった。授業は真面目に出るしレポートの手は抜かなかったが人付き合いに興味はない。自分の来歴が他と異なることを気にする人間が多いのもその原因の一つだろう。何処にいても異邦人である自分の居場所を見つけられなかった。

    「あら?」
    その風がいたずらにロビンの足下にコピー用紙を飛ばしてきた。
    「あ、悪ぃなぁ。それ取ってくれるかい?」
    くだけた声でかけてくる男がいた。
    取り上げれば英文の文献だ。腫瘍の治療法のレポートだ。彼は声に似合いのゆっくりとした動作で起き上がって手を伸ばす。
    紅く燃える髪の、にこっと微笑まれた笑顔は無精髭なのにその季節に似合う穏やかさだった。
    「はい、どうぞ」
    「ありがとう」
    微笑まれてそこは処世術。無難に薄い笑顔で会釈を返した。
    そこはキャンパスの巨木の下でベンチが置いてあるわけでもない。そしてあまり人が通らない領域ではある。
    直に草の上に座って気持ちよさげに男はそこで論文のコピーを広げていた。おそらくは学内でも珍しい光景でもないのだろう。
    ただそれだけのこと。




    次に出会ったのは同じ木の下だった。
    今度は気持ちよさそうに寝ていたが、私の通りすがりに薄目を開けた。そっと離れようと、驚かしたつもりはなかったが視線があった。
    今度はロビンが軽く微笑んで彼はゆっくり手だけを振った。




    「やぁ」
    次には彼がやはり緑の上から声を掛けてきた。
    「よく会うね」
    「通路に貴方がいるからよ?」
    「君の、通路だろ?本来ここは人はあまり来ないんだけど?」
    何者かと思ったが改めては聞かなかった。あちらも名乗るわけでもこちらの事情を尋ねてくるわけでもなかったから。


    挨拶と会釈の仲は二ヶ月。その半月後には床を共にした。
    事後の煙草が美味しかったから気が向いた時にだけと言う付き合いはその後彼が居なくなるまで変わらなかった。





    「レポートの提出は三日後まで。」
    基礎実習は時間はあってなきがごとし。実験をしながら空いた時間に食事に行くのもいつものことだし、バイトの後に又帰ってきては観察を続ける様な連中も普通にいる。一旦筋トレに向かう体育会系の猛者もいる。寒い季節だが、真夜中にでも男女関係なく出入りして、実習を続けている。
    ロビンは大半の実験をそつなくこなす方だったが最後の課題だけはどうも試薬の反応が思うようにいかずデータが予測値に達しない。
    そのおかげで居残る羽目になれば教授自身や講師の先生とも親しくなったりもする。


    「あんただったのか、噂の元臨床心理士経由の美人ってのは。その若さでなぁ」
    この国でこの資格を取るには結構臨床経験や学歴が必要だ。それを海外でとっていただけなのだが。
    だが顕微鏡を前にして講師のルゥが実験以外のことを話したのはそれだけだった。噂に乗じて学校側は生徒のデータをどこまで流しているのかと言うことは考えないようにした。



    その日、実験室の前の半分屋外の廊下でタバコを咥えながら赤い髪がは雪に映える中、雪にまみれて彼は手を挙げた。

    「よ。終わった?」
    無視して歩き始めたら何事もなかったかのように側についてくる。
    「待ち伏せ?ずいぶん小児科医って暇なのね?」
    「あ、つれねーの。これでも二日ぶりに病院をでれたんだぜ?生理学には後輩がいんだよ。ほら、あのでっかい奴」
    巨体のラッキー・ルゥは病理学のなかでも熱心なほうだ。学生の指導も積極的に見えないのにさりげなく一番わかりやすくツボを教えてくれる。
    「道理であの人私のことを知ってたのね?」
    「いやーー美人は得なだけ」
    「今日は早く終わる日ってだって事も?彼に聞いたの?」
    「こっちの仕事も一段落だしな。オレも得した」
    まじめに言うからつい吹き出した。
    そのまま私は手を伸ばして彼の帽子の上の雪をはらい落とした。
    「シャンクス。鼻の頭まで髪と同じ色よ」
    「寒いし腹減ったな。旨いモンでも喰いに行こう。」
    ふと彼の手の中の本が気になった。

    「ん?読んでみるか?十年前の本だけどな。」

    懐から出された手に一冊の赤い本。著者名に薄くなった金字で「ゴール・D・ロジャー」の名が見えた。表紙に見惚れた途端もう一方の手が私の手に繋がれて一緒に、大きなシャンクスのポケットに突っ込まれてる
    「手、離してくれないかしら?」
    「ダメ。本のレンタル料。このまま暖めて」
    「その前にお腹が空いたわ。飢え死にしそう」
    「俺を喰って良いから」
    「固そうよ」
    「大事な所は硬いけど?」



    幾度か身体を重ねていると、徐々に身体は開き、心も開くようになる。
    枕元にデリカで仕入れたピザやサンドウィッチがバラバラに並んでその合間の空き缶にさっきの吸い殻が捨てられた。
    もう一本、付けた細いタバコの先に細い灯がともっている。タバコは普段は口にしないが疲れたときなどふとしたときに欲しくなる。

    「いや?大学から前歴なんて伝わってねぇよ。話したくなったら聞くけど?」
    先ほどまでの飢えた瞳は二つの欲を満たしていたずらっ子な瞳に戻った。
    「馬鹿な医者を相手にするのが嫌になったのよ。リセで向こうの資格も持っていたし、こっちに来てしっかりした先生も一握り居たけどろくに物も知らない研修医の連中の偉そうな態度に頭が来たし、だったら自分が医師になっちゃえばいいんだ、と思ったの」
    「ひゅ~ロビンちゃんらしいねぇ」
    普通そんな偉そうな事、とか思うものだ。再受験の準備中周囲の視線はどこか冷淡だったし、そのころ付き合ってみた研修医には言外に思い切り馬鹿にされたものだ。だがこの男にはそれは感じない。

    「今後はやらねぇの?元仕事。」
    「先は見えないわ。一夜だけのつきあいみたいな患者はもう沢山。もっとちゃんとつきあえる方が・・。」
    壁に置いたファイルはかなり厚い。自分なりの患者のサマリーだ。
    だがその名前達は滅多に再会できない。他の医院でトラブルを起こしたという噂を耳にするばかり。


    「あんたは聞かねぇな、この傷の事。」
    綺麗な肌に大きなメスと縫合の後。彼を解きほぐす糸口?でもそれには興味がなかった。
    「・・傷は誰にでも、何処にでもあるもの。それとも聞いて欲しいのかしら?」
    口の端に浮かんだ笑みがもう一度の誘いの合図だった。










    「これは・・・?」
    休日のとある日のことだった。コピーの山にノートパソコン。ロビンが授業のノートを見直している間に鼻歌を歌いながらシャンクスはまるで自室にいるように仕事を広げた。
    「仕事?」
    「そ」
    「職場でやれば?」
    「冷たいなぁ。少しでも一緒にいようってキモチだと思ってくれない?」
    答え代わりに冷蔵庫から冷やしておいたアイスコーヒーを注いだ。
    見るとカルテのコピーだ。名前はすでに黒塗りされて勝手なナンバーが振ってある。
    その頃はあまり煩くもなかったがプライバシー保全対策を最初からきちんとやってある。
    興味と言うよりは会話の流れから聞いてみた。

    「どんな症例?」
    「ん?ああ、今そろそろいいとこまできた小児腫瘍だよ。じゃぁ学生さんに試問。小児腫瘍。良性悪性混合で。プロの前で言えるだけ言ってみ?」
    「白血病、リンパ腫、Wilmus腫瘍に網膜芽神経腫。それから・・」
    「代表格は出たか。本当はもっとあるぞ。小児の癌は大人並みに複雑だ。そんでこれは小児横紋筋肉腫Rhabdomyosarcoma。胎児型のclinical stage2・・とまで言ったら判るか?」

    当時の私は首を横に振った。小児の癌患者のカウンセリングに高校生の頃向こうで立ち会ったことならある。難治例で、そして彼女は数ヶ月後に他界したことを聞いた。
    けど病気自身について詳しい話は専門外だし無理。まだ臨床に参加していないし。

    「そうだな、腫瘍の中じゃまだ質は良い方で進行もマシな方ではある、ってぐらいかな。
    最近の小児腫瘍の治癒率は格段上がってるんだぜ。十年前じゃ致命的だった。けどこいつには手術もやったし抗癌剤も年を越えて投与した。放射線も使った。将来的には残せる物は残す、そのさじ加減が腕の見せ所ってね。
    こいつは・・発見された初期がほとんどやばい所まで行きかけててね。
    けど頑張ったよ。俺もこいつも。何とかうまくいったって例だからみんなに報告しとくの」
    嬉しそうにデータの後追いを続けている。
    こんな嬉しそうな彼の顔は見たことがなかった。

    「小児の癌はなぁ。本当は多職種のチームで診れたら良いんだが絶対数が少ないからなかなかチームにまでは育たねぇんだよな」
    「珍しいわね。そんなあたりまで口にするなんて・・・よほど思い入れが深いのかしら?この患者さんに」
    その一言を受けてシャンクスはゆっくりとロビンを見た。
    ゆっくりと、光が優しくけぶる瞳。優しい、優しい瞳。
    満足そうに浮かんだ口元の少し伸びた髭にまで優しさが満ちあふれていた。

    「こいつにはねぇ特に思い入れがあんだよ。面白い小僧でね。もの凄い暴れん坊で、そのくせ甘ったれだった。本来治療するときに個人的感情なんて無いけど、あいつには未来を絶対に見せてやりたかったんだ。未来の夢を。生きる夢を」

    くすくす笑いながら古い入院カルテのコピーをぱらぱらめくる。十数冊にわたるそのカルテ記録は彼の闘病生活が何度も繰り返された証拠。
    その間シャンクスも共に戦った証拠。若い頃のシャンクスの筆跡が見える。まじめに書かれた初期から殴り書いたような時期もあった。
    彼らしくない珍しい鼻唄はさながら少年がそこにいるかのようだ。

    「子供の時から追いかけた夢に向かって生きる方法を、道を、生きることの全部を教えてやりたい。そう思ったのは医者になってあいつが初めてだったんだ」

    小児癌の少年の見る夢。病の床で少年が見る夢はどんなだろう。
    私の知っている彼らは泣いていた。そして耐えていた。
    だが実際の世界の中で知る現実はあまりに夢からは遠い。思いは裏切られ続けて手元に残るのはいつ散逸するか判らない。

    「夢・・ねぇ。大人になればなくすのに?」

    「大人になっても夢は見れるさ。実現も出来る。それを知ってるからな。けど最近の子供は知らない。教える奴がいねぇから。 だからわざとでも大人が子供に夢見る世界があるって教えないといけねぇ、と気が付いた。」
    「だから?」
    「いじけたガキ相手にするにゃうってつけだろ?この企画。あんたも参加してくれねぇ?」
    もう一つ、別のファイル綴りをシャンクスは手に取った。次年度用の手元のチラシはまだ下書き。一緒に挟まれていた古い資料は山積みだから歴史ある企画なのだろう。
    添付する南国の島の写真は大判になって見事に光る。
    子供達の満面の笑顔。
    その外挟まれた写真ではまだおどおどした子供も映っている。
    様々な顔。


    「そういえばあんたのこの写真ももらっても良いか?」
    「企画と関係ないのに?」
    私の壁に貼られた何枚かの写真達。若い母もいる。出会ったばかりの父と写した私の堅い顔の写真もいる。そして赤ん坊の写真も一枚ある。そのうち彼が手に取ったのは母が他界する前の最後の夏の写真だ。自分は12歳だった。
    「可愛い顔」
    「だって遠い昔ですもの。もう忘れたわ」
    次に数枚の写真の下に隠してあった一枚を拾い出した。
    「この子は?」
    「妹よ」
    「今の写真だと似てねぇ気もするけど、ちっさいころは面影はあるね」
    「今の写真?」
    胸からひらひらさせた一枚。いつ撮ったのか最近の屋外の自分が笑っていた。二人で出かけたときのものだ。
    「それは止めて」
    「ダメー、美人だから自慢してやる」
    「もう」

    そのチラシに書かれたキャンプの対象年齢は9歳から13歳だった。
    その頃の自分は何をしていただろうか。








    あの国では父親と一緒にいない子供など珍しくもない。ただ母が自分を父がくれた宝物と呼ぶので寂しいと思ったこともなかった。仕事上のパートナーが恋の相手に変わるのに時間など要らなかったと聞いた。存在の不確かさから漠然と他界したのだろうと思っていた。その後も母には何人かの恋人がいた。お国柄恋人はいるのが当たり前だったが彼らは私の父ではなかった。
    海外企業の秘書の母が急な病に倒れたのが9歳。両親を失い施設で過ごす自分にあの人が現れたのが15歳だった。



    30歳過ぎくらいの男性が私の前に立って大粒の涙を浮かべている。
    Orbia...
    母の名が聞こえた。
    Enchante.Vous vous appelez comment?
    初めましてを名乗るその人に覚えはなくとも胸がドキドキした。本三昧の生活の中でどこか夢に見ていたシーンだった。
    Je m'appelle Robin..Je suis la fille d'Orbia..Niko Orbia
    知らないうちに母が父の国の言葉を教えてくれていたのでどちらの国でも言葉は困らなかった。


    父の元で暮らそうという提案の中で一番惹かれたのは小さな妹の存在だった。
    母が23父が15の時に留学しに来たこの国で出会ったというドラマティックな過去の物語よりも、ずっとずっと強く惹かれた。
    その時にもらった水色の髪の天使の写真は縁がもう崩れてしまったが一番見やすい位置に貼ってある。
    例え本人には会えなくとも。











    その直後に起こった彼の離職は様々な憶測の付いた噂となって学内を飛び交った。目立つ男だけあってファンも多かったらしい。女性の集団に取り囲まれて聞かれた事もある。
    「ロビン、あんた行き先聞いてない?」
    「さぁ。知らないわ」
    顔も見ずに答えたら、答えた相手が悪かった事とその答え方のせいか噂は尾ひれも背びれも付いて広がっていた。知っているのに隠して居るだのいや捨てられたんだとか。
    本当に知らないのに。

    ただ・・・・彼の姿が見えなくなって、春の季節なのに寂しい木枯らしが自分の足許を通り過ぎていく感覚が拭えなかった。ふと気が付くと目の端であの赤い髪を捜していた。提出用の資料の紙ばさみから出てきたこの企画の案内用紙。その文言(スタッフ募集中)。レポートの提出もなければテスト期間でもないこの夏休み。

    暇つぶしくらいにはなるのかしら?

    そして夏直前に、父から久しぶりに緊急の連絡が来た。
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    空と海の狭間で-19

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/08/12(日)
    メリーが島に来る船ならサニーは島を渡る船。
    性能は互角。容量では数倍メリ-が勝り、機動性ではサニーが勝る。
    どちらも一世代前の船オーロジャクソン号に端を発し、OSアダムの支配する全自動系統に属している。
    どういう訳かフランキーはサニーの制作者の一人らしいのだ。

    という昼間聞いたフランキーの講義の中身はハナっから彼らの頭に入ってるわけがない。
    判ってるのは自動航行のやり方とキーがいることだ。
    小さな船の方が使いやすそうに見えたし。




    「もう出られるぞーーー!」
    「準備オッケーー!」
    ルフィとサンジの浮かれた声が、静かな港に響いた。
    時刻は10時。消灯時間はとっくに過ぎて9時半の見回りの後に抜け出した。
    「どうやって出てきたの?」
    これも抜け出したビビが聞く。
    「俺とゾロは小便。ウソップとサンジが迷子のゾロを探すって出てきた」
    操舵室の戸を開けながらくわっと怒ってるゾロの姿にビビがくすくす笑う。

    「で?ナミは?」
    珍しくビビが言い淀んだ。
    「・・あのね、ナミさん部屋に帰ってこなかったの。保健室だって言うから探しにも行けないし・・」
    小さな嘘が一つあったから後半はルフィの目が見れなかった。探しに行けなかったことだけは本当だけど。
    「しょーがねぇなぁ」
    遠くで聞いたサンジと目の前のルフィは心底残念そうな顔で肩を落とした。

    そのままウソップとサンジは陸につながれている舫綱に取りかかった。旧式の縄なのにかなり重い。

    「信じらんねぇな」
    サンジが呟いた。
    「な・・なに?」
    「いつもの俺ならさ、こんな馬鹿な事、耳に入れた端から否定してるぜ。下手すりゃ大人にちくって褒めてもらってる。絶対俺が正しいと信じた顔でよ」
    サンジが持ち上げた縄にウソップも手をそえた。互いの顔が側によってはっきり見えたからウソップはサンジの顔を真正面から見た。口元が、そして一つしか見せない瞳が何ともくすぐったそうに笑ってる。
    「こんなに嬉々としててよ、フランキーまで騙すなんてありえねぇ」
    あり得ないと良いながらサンジの顔は全部のパーツがもの凄く嬉しそうだ。
    「ル・・ルフィ・・の・・それ・・とみんな・・」
    「かもな。けどそーれよりもロビンセンセの愛のお陰かなぁ?!」
    両手を組み合わせて目からハートが飛んでいたからそれには黙っていたが、ウソップの太めの眉根が引きつって顔だけで思い切り否定していたらしく軽い蹴りが飛んできた。
    やられっぱなしは面白くないからウソップも軽く尻を蹴り返す。



    サニーはメリーよりも小振りだが実はこちらの方が新しくて性能が良いとフランキーは自慢していた。
    なるほど。

    こっそりサンジがくすねた予備のプレート状のキーはすぐ反応した。
    パスワードもクリアしたのは今日の昼にもう一度見せて貰って覚えたウソップの記憶力のおかげだ。機動音は思ったより静か。いい音がしてる。外を見るために操作室の照明はほの暗いが、手元の操作に問題はない。
    秘密の冒険めいた期待は高まる。
    自称キャプテンがスイッチを一つ押せばこの船は期待通り向かうだろう。


    画面に浮かぶ幻の島 ラフテルへ。
    ルフィが最初から最後まで行きたがっていた最終目的地 ラフテルへ。
    冒険の島へ。







    出発のその時、岸から細いライトが光った。懐中電灯の弱い光は真っ直ぐ船の脇の部分を照らした。
    「ビビ!?」
    「ルフィ!」
    「何をしているの?!」

    姿がシルエットで判った。ロビン先生だ。
    透き通るような声がしたのはまだ遠い。港の入り口の方だ。
    もう一つ足音もする。一人じゃないらしい。
    「み・・みつ・・!」
    「見つかった!?やべっ」
    サンジが最後に外した綱を船内に投げ込んだ。そのまま足場を使わずに飛び移る。ウソップも後を追った。

    素早く走り込んだロビン先生はさすがに大人の足だ。船に一気に近づいた。手にしていた傘は吹っ飛び、髪を振り乱しいつもの静かな様相とは裏腹に激しい声が響いた。
    「やっぱり・・!すぐに船を止めなさい!そのエンジン音はなんなの?いったいどうやって・・」

    ロビンの足は乗船用の橋桁までもうすぐ届く。
    先生に乗り込まれたらこの計画は頓挫する。
    「やばっ・・」
    「不味いな・・・・中止か?」
    ゾロが構えた。
    「ぃやだっっ!俺は絶対に行くんだっ!!」
    「ルフィ!やだじゃねぇだろう?!ばれたらすぐに追いつかれるぞ!」
    「だから今出る!」
    ルフィとゾロが争い始める中、脇にいたビビがわなわなと怒りを震わせて船縁へ駆けていった。

    「ビビちゃ・・危なっ・・!」
    登ってきたサンジの声も手も振り切ってビビは駆け寄った船の手すりからロビンを見下ろした。

    「なによっ!自分が大人だと思ってあたしに命令なんかしないで!!」

    「ビ・・ミス・ウェンズデー!あなたまで一緒なの?すぐに彼らも船も止めなさい!」
    ビビは爛々とした瞳で、呼吸を乱しながらも叫んでる。
    「もう嫌っ!何をするにもあんたが命令するばっかりで人の言うことなんて聞いてない!そんな姉貴風なんか吹かせないでよっ!」
    「貴方、知っ・・・・。」
    「ちょっと怪我したくらいでうるさいし、怪我だから止めろとか恩着せがましいばっかりだしっ!」
    肩で息をしているビビにロビンが圧倒される。ビビは悔し涙を拳で拭った。

    「なんで貴方ばかりが良い子で、私の方が悪いような気にならなきゃいけないのっ?」

    「ビビ・・」
    「あんたなんて嫌いよっ!いやっ!二度とあたしやパパに近づかないでっ!!」
    ビビの爆発に近い迸りにロビン先生は足が止まった。
    立ち止まったまま動けない。
    唇もわなないている。
    「貴方・・そんなこと思ってたの?」
    「貴方があたし達に指図しないで!あたし達は貴方の言いつけなんか守らないで行くの!貴方が怒られれば良いんだわ!」
    「ビ・・・・。」
    ぴたりと固まった全身の中でロビンの唇だけがわなないている。


    ルフィも、ゾロも、サンジも、ウソップも皆ビビの激しさに動けなかった。今まで感じてきた違和感が全てつながる。

    彼らに二人の間のくわしい関係は判らない。だけど快活なビビがロビンに関係した瞬間から変質する。その違和感は誰もが感じていて、あえて口にしなかった。


    「わたしは行くわ! 船長!ルフィさんっ!!あの女なんかに捕まる前に早く行って!」
    その命令し慣れた声だ。その声を聞いてルフィがいきなり目を覚ましたように答えた。


    「おうっっ!!」

    ビビの行動に驚いてゾロの静止も弛んでいたその瞬間、ルフィは指を伸ばしてスイッチを押す。
    その指示に答えてサニー号はゆるゆると離岸し始めた。
    慌てたロビンが船板に足をかけようとした。その瞬間

    「来ないでッ!」
    「ああっ!」
    入り口に立ったビビが周囲にあったボート用のオールを振り回した。
    架けてあった船板を無理矢理折られる形になって船は動き始めた。つなぎ目に当たる船のボディも、板も、周囲に破片が飛び散って双方が結構な痛手に見える。
    ロビンも衝撃の煽りを喰って陸の方に仰向けに倒れた。足をしたたか打ったのだろうかしゃがんだ姿勢で声を続ける。
    額からぬるっとした物が流れて居るのも気付かず拭き取りもせずに叫んだ。

    「あなたたちだけでなんて!駄目よぅっ!!」

    船が僅かに動いた、甲板の争いがとぎれたその一瞬。

    「えーーいっ!」
    ロビンの横を何かが船に飛び込んでいく。

    ナミだ。ロビンに遅れて走ってきたナミが桟橋から海を越え船に飛び込んだ。ギリギリ船縁に着地して振り返ったナミはにやりと笑って勢いよくロビンに手を振る。

    「せんせーーーー!ビビはあたしに任せて!」
    「ナミちゃん!!貴方まで!!」
    ロビンの額から滴り落ちるぬるっとした物がある。
    そんな彼女に気づきもせず、子供達は船に乗り込んだ。

    そして船は沖に向かって一気に加速した。




    サニー号は操舵室からの命令だけを受けてあっという間に航路を行く。
    子供達は子供達だけで旅立った。
    船はしずしずと、前の暗雲をも気にも留めずゆったりと彼らを乗せた冒険に旅立ってしまう。
    子供達には知らせなかったが、海上の天候はやや荒れ。今から嵐になりそうだ。

    「お願いよ!帰ってきてーーー!」
    ロビンの声だけがむなしく闇の中に響いていた。











    ナミの乗船に一気に歓声が上がった。
    「ナミィ!待ってたぞ!」
    「いそげっ!」
    「ナミさん!!」
    「!」

    「ナミ!よくきたな!」
    ナミはルフィの声に今は答えなかった。

    「ビビ」
    「・・・ナミさん」

    2人じっと見つめ合ってる。
    真剣な瞳。


    ビビは口もきけない。
    後悔と、謝罪と、その外。イッパイイッパイで気持ちが溢れて言葉になんてならない。
    どうしよう。
    ケンカしたのも初めてならどうやったら仲直りできるのかも初めてで判らない。
    見たこと無いような強さで睨み付ける瞳。
    そのままナミがすいっとビビに近寄った。
    手が伸びる。
    一瞬平手打ちを覚悟した。覚悟しても構えてしまって瞳は固く結ばれた。




    飛んできたのはいつものナミの指弾きだった。
    おデコに軽く一発。
    いつものナミの忠告と同じ。

    「約束したよね?キャンプの全部、ちゃんと付き合うって。アタシだけ置いてっちゃいやよ」
    ナミは花が咲いたようににっこり微笑んだ。ただその微笑みは少しのぎこちなさと、そして少しだけ首の辺りがうっすら赤い。
    飛び込んでは来たもののナミもイッパイイッパイなのだ。

    ナミの精一杯にビビは全身で答えてナミに飛びついた。
    「ナミさん!ナミさん!ナミさん!ナミさ・・・・・」
    ビビが飛びつく形でビビとナミが抱き合った。きっちりと堅く。


    「まったく!馬鹿達に会ったからってアンタまで馬鹿になること無いのに」
    「何を言うの。桟橋を飛び越えるナミさんの方がもっと危ないのよ」
    二人は微笑んだ。

    互いを判ってくれてたことが伝わってくる。
    ケンカの答えは出てないけど。
    きっと互いにどうやったらいいのかの正解なんて判ってない。ただ、互いにあるのはそれだけなんだと気がついたから。

    二人は手だけは繋いだまま身を離した。
    ニヤニヤニコニコ、残りの四人も周りで微笑んだ。
    その彼らに照れくさそうに二人は微笑み返した。

    「よーーし!改めて俺たちの班全員で出航だーーー!!」
    「おおおーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」









    興奮が少し収まるとナミは微妙に固まった笑顔でビビを見た。
    「で、ビビ?この船、どこへ向かってるの?」
    「え?」
    ナミの微笑みは微妙な照れ隠しも相まって固まり始めてる。
    このナミが、行く先の判らない旅路に出ようだなんてナミ自身が許せない。
    判っているだけにビビは既に腰が引けていた。この笑顔が怒りに変わる瞬間だけは想像が簡単だ。自分の顔色が青みを強めていると知りながら、でも答える。

    「あ・・・・・・・・・・私も知らない・・の」

    ナミは声が出なかった。そのままナミの堪忍袋の緒が斬られて斬られて。

    「なんですって!!?あんたって子は行き先も知らないでどうしてそんなモンに身を預けるのよ!!」
    「ごめんなさいっっっ!」

    言いたいことに衣を着せぬナミは言葉では収まらず拳固を握ってる。それを皆がニコニコと見守った。
    これでこそナミだ。言葉は少し乱暴で、でも正確で、そして何よりも温かい。




    ルフィが鼻をこすってる。
    「大丈夫だ。今から行く先は入れ直すんだけどな」
    そう言ってウソップの方を見た。
    「へ・・変更を・・・に・・にゅ・・入力しないと・・い・・いけ・・いけない」
    「えーーーー!?そんなので大丈夫なの?」
    「今日の午前、全員でフランキーに教わったんだ。ウソップは二度ほど見てるしな」
    二人は胸を張って自慢げだ。
    「へぇーー凄いですねぇ!」
    「あ、ゾロには聞くなよ、無理だから!」
    「ホントーーーーに?大丈夫なの?」

    あははと皆の輝いた笑顔の裏でナミの気持ちの底ではもう帰りたいと言う気持ちがちょっと見えた。けどこのまま行ってもみたい。こんなわくわくする事。でも。
    とりあえず操船のマニュアル探し。海図の確認。この辺りは誰もやってないのは予想どおり過ぎる。

    そして・・最初にした質問がまだ宙に浮いている。あたし達の一体目的はどこなのよ!!





    空と海の狭間で-20

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/08/12(日)
    雨の気配??


    「ナミ?」
    「なんだろ?海の上は慣れない・・けど雨になりそうな感じはする」

    操舵室の窓ガラスにはまだ気配はないけれどルフィの顔も映ってる位に暗い。窓の外は先も見えない広がる暗い海。
    眺めていると陽が落ちて暗くなっただけの窓に何かがぽつぽつとぶつかりはじめた。最初はまばらに。そして徐々に足を速めて聞こえる。
    「あーーあ、あたっちゃった」
    「雨?また当り?」
    ビビが聞いてきた。頷くとビビは皆に向かって得意げに言った。
    「ナミさんは超人的な気象予報士なのよ」
    「いっ?何だ?」
    「天気は絶対当たるモンね!」
    自慢げに男子に向かってビビは説明し始めた。遠足でしょ、運動会の時にもね・・ビビの笑顔は今までよりも明るい。
    明るいんだけどちょっと気になる笑い方だ。激しすぎるような・・もっともこの旅では何となくおかしい感じが取れない。

    「絶対じゃないよ、ほとんど。けどなんか・・今夜は雨だけかなぁ?」
    「他に何か来るの?」
    「そんなのわかんないよ」


    気のせいだと思う。けど嫌な感じが消えない。
    たぶん、きのせい。





    「ようし!ルフィ。これでラフテルに設定完了だ!」
    サンジがウソップの代わりに答えた。ウソップは仕上げとばかりに軽やかに入力画面を叩いた。
    「本当に大丈夫?」
    「ちゃんと俺もおっさんのを見てたからな。大丈夫だ。これでいけるっ!な、サンジ、ウソップ?」

    画面が処理表示を続けてる。
    強制航行は一度設定されると衛星で自身の位置を把握しながら行き先を決める。
    だから開発当初から素人のヨットにあっという間に広まった。そして大型の船にも仕込まれて半世紀が過ぎている出来ると言われてる。現代ではほとんど絶対的に間違えないと思って良い。

    画面の海図と島が映ってる。
    小躍りしながら走り回るルフィに向かってウソップは嬉しそうに細かく首を縦に振った。指さした地図は読み取れる。航路とラフテルの文字が大きくうつっていた。画面に映るともの凄く安心できた。
    「あ、でた」
    「おめぇら、凄げぇ」
    讃辞に喜び勇んだサンジは小馬鹿にしたようにゾロの方を見た。
    「まぁ、まりもにゃ出来ねぇ技ってこった」
    「んだと、こら」
    「悔しかったら迷子の看板外してからきやがれってんだ」


    「なんか・・サンジ君ってああだったっけ?」
    「なんだかふっきれてない?」
    女子二人がコソコソ話してはいるがサンジの笑顔には華やぎがある。パッと花開いたような楽しさがある。
    ゾロとの言い合いも今までほどの険はない。ただのじゃれ合いにも見えるのどかさだ。

    ま、いいか。

    目的地ラフテルはちゃんと船が捕まえたし。自動航行は当たり前の技術だ。
    それにこいつらも案外馬鹿じゃなかった。行くからにはそれなりに頑張って航行技術を学んでいたらしい。


    「バカの喧嘩は放ってーー。ああ、これなら大丈夫そうね」
    ナミが手を叩きながら機械の前に出て画面を確認した。
    「じゃ、もう下に・・降りてもいいの?」
    「いいんじゃない?けど外は暗くなってて危ないから甲板には出ない方が良いわっ・・てルフィ!キャプテン!あんた聞いてる?」
    「ルフィ。騒いで計器壊すなよ。」
    ラフテルだラフテルだと変な歌をはね回って騒ぐルフィは、サンジが落ち着いたからなんか菓子でも・・と声をかけた途端今度は飯~飯~とうるさくなった。小躍りしてるルフィはそのまま跳ねまくる。裸足に近いビーチサンダルで良くもまぁ滑らずはね回れるものだ。狭い船室でこれ以上騒がれるのは良くないだろうと思ったし、狭いから居にくいので皆それぞれが階下におりて座席シートに座った。ゾロはさっさと横になってる。本当に寝る手間を惜しまない男だ。


    操縦室から最後にウソップが出ようとして足下のコードに足先をひっかけた。跳ねて踊ったルフィがさっきぶつかった一本のコードだ。
    「?」
    先を見るとコンセントが一つ抜けていた。
    「?」
    さっきは計器はちゃんと動いてた。今も船はゆるゆると進んでる。いきなりトラブルが起こった気はしない。
    怪しいときにはあまりいじらない方が良い。何かあったら困るから。だからそっともう一度深く挿入するつもりでコンセントに手をかけた。何かぴりっとした気がしたのは一瞬だった。
    「?」
    画面は・・?普通。大丈夫だろう。
    「ウソップーーサンジの弁当喰おうぜ~~!」
    「早すぎだ!」
    呼ばれる声の方が嬉しくてこのことはまた忘れてしまった。






    お弁当が広げられた半階下はちょっとしたお祝いムードだった。時計を見ればもう11時過ぎてる。けど誰もが眠くない。そして代わりにおなかが少し空いていた。ルフィが騒ぎ、ウソップも騒いでる。

    「弁当ってのは現地で喰うモンだろうよ。なんで俺の自信作がこんな所でご開帳なんだよ」
    「いいじゃん!出航を祝って!」
    お弁当とやらまで持ち込んで・・こいつらって、やっぱり馬鹿?
    「船の行く先、何があるの?」
    「行けば判る!船を信じろ!」
    「お・・おうっ・・お。。おれ!・・・がんばったから!」
    「判ったわ。ルフィは無理でもウソップ、アンタの頑張りなら信じるわ」
    「なんでだよーー!」
    ゾロまで黙ってるけど起きてきてる。

    サンジの弁当はとても美味しかった。










    「外にでよう!一番前まで行こうぜ!」
    「お!・・・お!」
    お腹が一段落付いたらルフィとウソップがムズムズし始めた。
    「やめとけ。雨だし。だいたい外には出るなよ。暗いし滑ったらどうする?おめぇカナヅチだろ?それよりも!喰ったらちゃんと片付けろ!」
    言いながらサンジは手際よく片付けている。
    「浮き輪なら外にあったぞ?」
    「それがあったところでお前が落ちたら絶対溺れるね。賭けてもいいぜ」
    「サンジのケチーーーー!」
    「ケ・・ケ・・ケチーーー!」
    「んだと!コックに逆らうな!」
    言いたい放題しながら笑って二人は戻ってきた。
    「ありぃ?ゾロは?」
    「ああ?トイレか?」
    「あいつさっきからあんま元気なくて喋んねぇな。腹でも壊してんのか?」
    ルフィはきょろきょろと見渡すがゾロの姿はない・
    「喰うにはきっちり二人前は喰ってたぞ?」
    ご飯はバロメーターだ。サンジの目は本能的に他人の摂取量を計算してる。
    「ふーーん」
    「そういやナミさんもたまになんだけどなんか微妙だったな?」
    「あーあいつさっきまで保健室にいたらしいからな」
    「え?俺に内緒でいつの間にそう言う話に??」
    語調を荒げて言うサンジにウソップは首をかしげた。
    サンジに内緒?なんで?







    節水仕様の洗面器で手と少し顔も洗った。
    小さな船だがきちんとトイレが男女に分かれていて良かった。流石に男子が一緒だけに恥ずかしい。
    ビビは簡易キッチンの方で洗い物をしてる。早く手伝いに行かないと。

    ナミは一人になると考え込む。気がかりは少しある。
    ビビのことは一旦保留。船の行く先はなんとかなってるみたい。
    残りは一つ。

    ゾロに、話しかけにくいままだ。

    さっきの・・キャンプファイヤーのお礼だって言わなきゃいけないのに・・あのときは色々ありすぎて皆が居るところでは言いにくい。そもそもどう言ったら良いんだろ?切りだし方が良く判らない。
    普段通話せばいいと思うと余計に普通が判らなくなる。

    反対にゾロはまだ怒ってるかもしれない。だったらいやだ。


    狭いところであまり考え込みすぎたので打ち切って外に出た。ドアがギイギイと鳴る。その音が重なってた。
    「あ」
    「あ」
    偶然ゾロも隣から出てきたところだったなんて。
    ゾロも驚いたようだ。目をまん丸に開けてる。

    あ、そうださっきのお詫びも言わなきゃ。それに・・。

    バクバクッと心臓が動き始めた。
    落ち着け!えっと・・
    二人口を開きかけたのも同時だった。

    「あのね・・・」
    「あのよ・・・」

    タイミングが合いすぎて言葉が打ち切られた。
    思わず目も体もゾロと反対の方向に泳いでいる。
    なんでだろ?言いにくい。

    「あんた・・」
    「お前・・」

    言葉がまた重なってつながらない。
    間の空気ばかりが重くなる。
    ええっと。
    ゾロが何か言ってくれるの?
    アタシ待って良いのかな?

    ゾロの方をそっと見た。
    ゾロもそっとこちらに視線を寄越してた。
    視線が絡もうとしたその時。

    「ナ~ミさ~~~~~~ん!さっきまで保健室って本当?体は大丈夫?!」
    サンジが思いきり船室のドアを開けて飛び出してきた。
    「え?・・え?え?・・ええ。」
    「いやいやその話を聞いて俺の心臓が止まるかと思ったよ!」
    「あ・・ありがと」
    ああ。嘘な訳じゃない。けどこの言葉はゾロに最初に言うはずだったのに。


    ギイと船室のドアがまた開いた。ゾロが何も言わずにすっと入ってゆく。またその背中しか見えない。ドアを支える後ろ手がポケットに戻った。

    そしてゆっくりと扉は閉じた。



    「あ、アタシ、ビビの手伝いしなきゃ」
    「俺も手伝うよ。病み上がりでしょ?」
    「ううん平気。サンジ君は良いから休んでて」
    ナミもパタパタ小走りで駆け出した。





    船室の皿を下げて来たウソップは台所の泡に驚いた。
    台所といっても小さなシンクにポットが一つと電気式のコンロが一つ。食器もなければ鍋もない。ペーパーナプキンが高いところにぽつんとあるのが余計に目立つ。
    狭いところが泡だらけ。
    「や・・やりすぎ・・じゃ・・じゃないか?」
    「ああ~~ウソップさん良いところへ!ちょっと手伝ってくださいな、ナミさんが戻るまで!」
    「は・・はい」

    床にこぼした洗剤と持ってきた洗い物の管理はあっという間にウソップの管轄にされた。
    何より狭いこの一角で、水だって無限じゃない。とフランキーに厳しく仕込まれた。
    ウソップの手は動く。
    手だけは動いてペーパータオルを使ってあっという間に泡も皿も処理をする。

    ウソップは何を言って良いかは判らない。だけれど沈黙が重くなってきた。
    「あ・・ビ・・ビビ・・はゾロと同じ が、学校?」
    「いいえ。駅からご一緒しただけよ。どうかした?」
    ウソップの顔に一瞬驚きが見えたのをビビは見逃さなかった。ウソップは首をひねって少ししてから答えた。
    「ゾ・・ゾロが・・ずっとナミを見てる」
    「ナミさんを?どうして?」
    サンジなら判る。元々目配りと気配りの塊のような人だから。おそらくはそう言う物とは一番遠いと思われた男の名前にビビの目は丸くなった。
    「め・・目が離せないって」
    それからこうも言っていた。
    「な・・んか、みちまうって」
    「それって・・・・恋?」
    どんな窮地にいても女子に恋話は栄養源だ。ビビは目を輝かせた。
    「ナミさんに目を付けるなんて!あの人見る目があるわ!」

    凄く嬉しそうなビビのは大きな眼だなぁと思ったけど口には出せない。それでも自分が女の子と二人で何かやってるだなんて今までの自分からは想像も付かない。しかも会話してるだなんて。

    「けどだめですーー出直してください。ナミさんはもの凄く素敵な人じゃないと差し上げられませ~~ん」
    ビビの口調が面白くてちょっと吹きだしかかってこらえた。
    「・・・?た・・たとえば?」
    「うーーんわかんないけど。凄い人」
    ウソップはビビの言葉もよくわかんないに入ると思った。
    洗い物はもうすぐ消えて無くなる。



    外ではナミが真っ赤になって壁にへばりついていた。
    (そんなはずないんだけど。それとも本当に怒ってる?)
    こんな話題の中に入れるほど、ナミの神経も太くない





     

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