蜜柑狩 '13ナミ誕
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    ◎ただ声が聞きたいだけ08

    2009ナミ誕 ] 2009/07/01(水)
    「遊蛇海流ですって?」
    「ええたぶん!」
    ノースやイーストにもうねる蛇の海流と呼ばれる物はある。しかしここグランドラインの遊蛇海流の規模は桁が違うと思い知らされた。遠い物は数100km飛ばされてしまうし、小振りの物なら数10m上空に連れて行かれてすぐに真下に落下する。それが混在しているのだから流れを見誤るととんでもないことになる。
    「なんでも良いぞーーー!!」
    「すげーーー!!遊園地みてぇだ!」
    船長が大はしゃぎなのはいつもと変わりないし規模次第で皆の顔色の比率の青さが増すだけだ。


    「飴だ!!」
    「飴が降ってきた!!」
    「こいつ酸っぱい飴だ!」
    「これはシュワッとするぞ!!」
    「丸虹模様の飴だ!!」
    甲板に降った飴を皆で集める。ルフィが伸ばした舌で受け止めても独り占めだしロビンのネットは痛いから嫌だとご本人の弁。空から降ってくる奴が皆に当たると痛いからとブルックが用意したのは黒い傘だったが大きな穴が空いていてそれに大爆笑した。皆受け入れるのが早過ぎるくらい。突然一緒に笑っていたナミが頭を抱えた。
    「どうやったら空から飴が降ってくるのよ!?おかしいじゃない!」
    「オタマジャクシが降るくらいですもの。気にしちゃ駄目よ。」
    「それ新聞のガセネタでしょ!?」
    彼女の手には久しぶりのクー便が。これも開いて飴を受ける。
    「ナミーー!」
    チョッパーの声にふり向けばナミの口に甘いとろける飴が放り込まれた。
    「あんまぁ~~い」
    「今怒ってたの誰だよ!」
    ナミの目もとろけてる。気持ちよすぎるらしい笑顔にウソップが突っ込んだ。
    「え?誰が怒ってたんですって?そんな暇があったら集めなさいよ。お宝みたいなもんじゃない!」
    ナミは頬を膨らませて笑い、指はウソップの手に抱えた飴に伸びてる。








    ◎ただ声が聞きたいだけ

    古城のベッドはキィキィ軋む。
    夜になったら窓を開けて貰った。夜空には星が。
    オレにはどれがどれだかいくら教わっても分からなかった。


    お前は今ルフィと一緒か?ちゃんと笑ってるか?好きなお宝は守れてるか?
    最後に聞いたのは飛ばされる時。大気の速度で歪んで消えた。
    声には遠く。果てしなく遠く。
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    ◎何度でも09

    2009ナミ誕 ] 2009/07/02(木)
    夢を見た。
    朝、生理現象が起こった。
    「今日の洗濯当番お前な。」
    男共の洗濯当番は適当に順番。
    「ああん?・・・・・」
    「だろ。」
    ウソップの突っ込みが冷静だから怒りも沸いてこない。だからといって聞く気がしない。洗濯物を前に動かないでいるとルフィがすかさず声をかけてきた。
    「ゾロー溜まってんならナミに抜いて貰ってこいよ。そーだ!お前がしないんだったらナミも暇だろ?俺がかわりにして貰ってこう!」
    「・・・ルフィ、てめェ・・・斬るぞ。」
    「てめェ!部屋で刀は抜くな!」
    「ベェェェェーーだ。」
    サンジの静止の声も振り切って側転でひらりとルフィは逃げる。舌もゴムだから良く伸びる。
    壁側で構えるかと思いきや興が失せたようにゾロに向き直った。
    「ナミが笑ってねぇの、オレ やなんだよ。」
    壁を背にルフィは帽子をかぶり直して部屋の真ん中のゾロをじっと見ている。
    沈黙が二人の間を支配する。
    ゾロの方が先に目をそらした。
    「・・お前等と笑ってるじゃねぇか。」
    するとルフィがたたみかけた。
    「全部笑ってないと嫌だ。」
    その言葉にさらにゾロは一瞬動かなくなった。しばし下を見ていた視線がゆっくりとルフィに向き直る。それを受けたルフィは真っ直ぐに、揺らがない。斬り込むように鋭く且つ重圧を隠さない視線をゾロはルフィに圧しつける。そして一呼吸。言いにくそうに、薄い唇を開いた。
    「・・・・善処する。」
    「おう。」
    部屋にほっとした空気が流れ、皆ゾロを見ていた。

    「けどどうすりゃいいんだ?」「オレ、しらねェ」「てめえらアホか!?」
    三人寄っても知恵一つも出なかったが。







    ◎何度でも


    夢にばかり見る。甘い声。吐息。
    夢の中でオレから遠く、お前は笑ってる。曇りのない笑顔で。
    何度も夢に見る。
    目が醒めると淡雪のように消える。

    だが現実で本物に会ってしまえばそれで満足してまた俺は一人で俺の道を行くだろう。
    これだけは否定できない。変えることもできない。

    だから夢の中では。オレは何度でもお前に囚われている。





    ◎夕映え

    2009ナミ誕 ] 2009/07/03(金)
    夕映え





    飛ばされてる間は最悪。

    得体の知れない恐怖から始まってパニックが収まった頃にはもうかなりの時間が過ぎ、シャボンディからも相当の距離を飛んでいたと思う。
    いくら飛んでも勢いも体感速度も変わらないから途中でじたばたするのはあきらめた。そう、色々経験は積んでるわ。こういう時の対策だって慌てちゃ駄目。落下のことは一旦考えないようにして、それで何とか落ち着いた。途端、今度は皆のことが思い起こされて泣きそうになったのを堪える。次々と居なくなる彼らの身の安全を祈るように憂う。せめて今の自分のようには無事でありますよう、といって自分が無事とは言い切れないけど、まぁとにかく生きてる。けれどさっきの島の事を思い出して皆を思うほど絶望的になる。こんな状態では寝られる訳もなく、底の知れない怖い想像ばかりが浮かんでは消える。皆無事なの?一番最期に残されたルフィは逃げられたの?ロビンは?巨大化したチョッパーは?
    あそこにいた敵の面子では厳しいかもしれない。怖くてなにか他に明るいことでも考えようとしても、粘り着くような陰性の思考ばかりが思考の表面を覆う。
    なにもかもを考えることすらイヤ。
    そんな繰り返しだった。


    ふわっと止まった時には少し意識が落ちていたのかもしれない。殆ど衝撃という物がなかった。覚えある空島の島雲の上に、予想していたより柔らかく載せられたと気付いたときには助かったという思いが心底嬉しかった。だが、一瞬の身の安全の喜びはここに飛ばしてくれたあのくまへの怒りと直後に不安に切り替わる。
    どうしてくれんのよ!ここどこなのよ。

    でも。でも怒っても一人。
    仲間もいない。帰りたい。
    でも船もない。ここは空。

    孤独が絶望をより一層強める。
    帰れないかもしれない。
    もう会えないかもしれない。
    誰かの命が奪われたかもしれない。
    もしかして遠い未来に会えた頃にはルフィは他の仲間と世界をまわってしまっているかもしれない。


    なにより、もし戻れてもあんな敵ばかりの新世界は恐ろしすぎる。
    新世界前に、あんな怖い敵が居るとは思わなかった。あたし達だって強くなってると思ってた。でも一日を超える時間、人間を飛ばしても衰えなかった力には、寡黙なバーソロミュー・くまの静かな力と恐ろしさを解らせる。今でも思い出せば鳥肌が泡立つ。

    緑の頭が思い出された。甲板で黙々トレーニングするシルエット。スリラーバークではただ一人あの絶大な力を間近で見、それを越えようとあの馬鹿はなにもかも忘れてただ相手を倒すことそれだけを願ったのだろう。あたしのことすらも置き去りにして。

    なによ。
    絶望三昧の思考の中、この件には急にムカついた。ムカついたなんてもんじゃない。何とかして八つ当たってやりたい。
    バカのくせになに考えてんの。
    風呂のときにはあの馬鹿に心底腹が立ってた。
    だってあたしが深夜に一人で行ったのなんてずっと放っておかれて寂しかったんだもん。ちょっとしたいたずら心もあったけど。でもこのあたしが浴場にまで誘いに行ったのに、魅惑の裸体を目の前にやっぱり気になるのは敵と自分を鍛えることばかり。もう知らないと、すねても追いかけてもこないし後は取り合わなかった。
    ケイミーと会ってシャボンディ島に入って、そんなことは一切なかったことにしてただの仲間のふりをしてた。ううんふりじゃない。解って無視してこっそり溜飲下げてた。
    その方が楽だった。ズルかったのはあたし。分かってるけど、だってゾロが悪いんだもん。


    でも今は一人。
    怒っても、泣いても。
    こんな風に会えなくなるのなら、あのとき意地を張るんじゃなかった。あたしのことなんていつでも手に入ってると安心してたことがしゃくに障るとか許せないことだなんて、今みたいに会えないことに比べたらずっと些細なことだった。
    あの時には無視することが大事だったかも、でもいつも思ってたのに。海賊になったら悔いの無いように生きるって。

    今は触れることもできない。声を聞くことも。遠くにその姿を眺めることすら、できない。
    あたしはやりたいことをやるために海賊になったのに、今は後悔ばかり。




    「娘さんや」
    「うっさいわ!」

    己の不幸を想像するだけでこの島が沈んでしまうのではないかと思ったその時だった。
    足元に蜜柑色の光が下の方から登ってきた。
    何?と思ったのもつかの間。下にあるはずの島雲の隙間をぬって更に柔らかい光が絡みつく。

    「娘さんや」
    うるさいおじさんを睨もうと面を上げるともう日が傾いて天頂の真青の空の色が崩れ始めていた。自分の足下からゆるゆる色が変わり始めてる。ちょっと不思議だと思った。夕焼けは太陽と空気のハーモニー。だから高度10000以上のここの夕焼けは地上では絶対見られない光景だ。

    『かこーーーーん』

    少しずつ広がる夕映えに感傷に浸るように動かなくなったあたしに向かってどこからか大きなバケツが飛んできて。ぼぅっとしてたら顔の横をかなりの速度で飛んでいった。
    確かめるのに振り返りその大きさに背筋に寒気が走る。なのに、飛ばした先の原因ど真ん中のおじいさんは謝るどころか小躍りして跳ねている。
    「なにすんのよ!!」
    「おお、すまん。先ほどの縄の改良版が成功したんじゃ。次はもっと大きな風を起こそうぞ。」
    「ブッソウなもん飛ばすんなら一言断りなさいよ!」

    気付くと、お腹から大きな声が出てた。
    いつもの船でアイツやルフィを怒鳴ってた時みたいに。

    ああ。

    こんな文句はくまの奴に言いたかった言葉だ。ずっとずっと空の中でずっと言いたかった台詞だ。
    そしてゾロの馬鹿にも言ってやりたかった。言って、判って貰いたかった事なんだ。
    言い切ると気持ちよかった。
    足下からの茜色の太陽がもう足全体も照らしてる。さっきの突風とは違う風が足下をくすぐってゆく。足元から感じ取られる気象現象はなんて分かりやすくて軽やかで。

    絡んだやさしい風を肌で感じる、それはいつものあたしの肌の感覚が戻ってきたみたい。ふとさっきの突風が、それはくまの技ににてると気がついて更にクスリと笑いが頬にこみ上げる。

    風が吹く。
    あたしのそばを風が吹く。アーロンパークが崩壊した時みたいな風が吹く。ロビンを迎えに行った時のようにも似た爽快な風が吹く。

    急に視界が開けた気がした。
    あの時みたいな風が吹き払ってくれたみたいにあたしは風も使える?もしかして、この技ならもっと強くすればくまにも対抗できる?
    空島の茜色の光は静かにあたしの顔面を照らし始めてる。

    くまはあいつが倒したがった男。いいえむしろ倒すと決めていた男。
    あたしはあんな化け物じゃないから同じ剣をとって戦うなんてことしないしできない、恐いから嫌。けどこれならあたしにも戦える。と言うよりあたししか戦えない。

    身体の中で心臓がどきどき言ってる。
    ドキドキは目の表にも裏にも広がってゆく。

    ああサニーの夕焼けと同じだ。船も島も全体に夕焼けの色に染まる。
    サニーの夕日の中、それは船を、海を、そして仲間を全て同じ色に染める夕映えだった。その中で一人黙々と汗を流し続ける男の姿が眼(まなこ)の裏に甦る。
    どくどくっっと更に心臓が高鳴る。
    一気にあたしの周りに船の風景が戻ってくる。
    奴らの声が聞こえるような暖かい空気が甦る。


    視界がぼやけてきた。
    ああ、あたし、ただ見ていたかったんじゃなくて、ちゃんと自分で戦いたかったんだ。何も言わなくてもアイツのこと分かっているとかそんな風に自分を閉じ込めるなんて全然あたしらしくない。置いて行かれるのがいやだったからって守りに入るなんてホントにバカみたい。
    勝手にどこかに行くだろう男ともっと対等に、それどころか追い抜いて先を走っていたい。あたしはか弱いんだから守ってもらうのは当たり前だけど、守られてばかりはイヤ。
    今なら、あたしも走れるから、強くなろうとする気持ちがあるから、だから心から頑張る仲間を応援できる。
    がんばって。くまなんかに負けないで。あんたはあたしの仲間で、誇りで、言ってはやらないけど一番深いところにいる人だから。
    そして無理だったらあたしが奴を倒してあげるからっていったらきっと悔しそうな馬鹿にした目つきをするのよ。それがたまらない。
    思いと体と心が同期していく。







    空島の夕焼けは遮るものなく足元から頭まで降り注ぐ。
    足下の島雲も皆一様に茜色に染まる。それを見ている瞳も身も肌も彼女の髪と同じように茜色に染まっている。
    同じ色に染まってもその光に溶けないしっかと空をにらんだ瞳は、微動だにしない。


    「娘さんや。そんなに夕焼けが珍しいかの?」
    「珍しいかと聞かれたら、そうね。群青の空と対の澄んだ空気の光芒のない夕焼けなんて地上では見られないでしょうね。」
    クスクスと笑いを含んだ声が初めてこの空島に響く。
    「けどいいわ、私もっと綺麗な夕焼けを知ってるから。」

    やや落ち着いた知的な瞳。空を射抜きそうな強さを中に隠し持っている。
    「帰りたいのかのぅ?」
    「心配要らないわ。帰るもの。」
    瞳の強さに負けないくらいに口元に落ち着いた力がみなぎっている。
    「必ず。私の後を追わせてやるんだから。」
    彼の腰にしまってあったはずのロープが彼女の手の中にあって少し慌てたが彼女はそれを徐に解き始めた。



    口元には自信の笑み。
    夕映えの中。澄んだ空気の中を通った均一な光を受けて立つ姿はこの国の女性気象師最強の称号「天候の魔女」の名に値する風を示し始めていた。




    ◎ラスト・チャンス

    2009ナミ誕 ] 2009/07/04(土)
    10(最終話)

    「どうだ?会心の出来だぜ。」
    ウソップのスケッチは鮮やかな茜色。昨日の綺麗な夕焼けの中のサニー号の甲板。
    方々に小さい全員が描かれていて、自分のシルエットも隅に描かれていた。
    そして。
    手前には、それを見て笑っている女が二人。彼らを眺める同じ色をした横顔。蜜柑の色した髪が同じ色に燃えている。笑顔で、どこか寂しそうで、郷愁と優しさを浮かべる瞳が本人のように切り取られていた。
    手を伸ばしてしまいそうに切なく見事な夕映え色。

    今でも。俺の瞼の裏に。鮮やかに。





    ◎ラスト・チャンス
       


    日の差さないここにいても。
    今すぐにでも。
    俺の瞼の裏に。より一層鮮やかに甦る。

    やり残しなんて性に合わねェ
    俺は帰る。絶対に帰る。





    『夕映え』終章

    2009ナミ誕 ] 2009/07/15(水)
    足元に触れる砂の感触。目を閉じると本物の潮騒が聞こえてる。
    瞼の裏の優しい光の気配にそっと目を開けると一瞬目がくらむ。
    そこは一面夕焼けの色。夢に望んだ大海の染まる世界。
    その中を互いの影は彩輪を背負ったような色合いに柔らかく溶けながらもハッキリと浮かんで見える。

    二つの影は長く伸び、 そして一つになった。

    目に心に鮮やかな その夕映えの中で。


     

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