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    蜜柑狩 '13ナミ誕
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    ◎夕映え

    2009ナミ誕 ] 2009/07/03(金)
    夕映え





    飛ばされてる間は最悪。

    得体の知れない恐怖から始まってパニックが収まった頃にはもうかなりの時間が過ぎ、シャボンディからも相当の距離を飛んでいたと思う。
    いくら飛んでも勢いも体感速度も変わらないから途中でじたばたするのはあきらめた。そう、色々経験は積んでるわ。こういう時の対策だって慌てちゃ駄目。落下のことは一旦考えないようにして、それで何とか落ち着いた。途端、今度は皆のことが思い起こされて泣きそうになったのを堪える。次々と居なくなる彼らの身の安全を祈るように憂う。せめて今の自分のようには無事でありますよう、といって自分が無事とは言い切れないけど、まぁとにかく生きてる。けれどさっきの島の事を思い出して皆を思うほど絶望的になる。こんな状態では寝られる訳もなく、底の知れない怖い想像ばかりが浮かんでは消える。皆無事なの?一番最期に残されたルフィは逃げられたの?ロビンは?巨大化したチョッパーは?
    あそこにいた敵の面子では厳しいかもしれない。怖くてなにか他に明るいことでも考えようとしても、粘り着くような陰性の思考ばかりが思考の表面を覆う。
    なにもかもを考えることすらイヤ。
    そんな繰り返しだった。


    ふわっと止まった時には少し意識が落ちていたのかもしれない。殆ど衝撃という物がなかった。覚えある空島の島雲の上に、予想していたより柔らかく載せられたと気付いたときには助かったという思いが心底嬉しかった。だが、一瞬の身の安全の喜びはここに飛ばしてくれたあのくまへの怒りと直後に不安に切り替わる。
    どうしてくれんのよ!ここどこなのよ。

    でも。でも怒っても一人。
    仲間もいない。帰りたい。
    でも船もない。ここは空。

    孤独が絶望をより一層強める。
    帰れないかもしれない。
    もう会えないかもしれない。
    誰かの命が奪われたかもしれない。
    もしかして遠い未来に会えた頃にはルフィは他の仲間と世界をまわってしまっているかもしれない。


    なにより、もし戻れてもあんな敵ばかりの新世界は恐ろしすぎる。
    新世界前に、あんな怖い敵が居るとは思わなかった。あたし達だって強くなってると思ってた。でも一日を超える時間、人間を飛ばしても衰えなかった力には、寡黙なバーソロミュー・くまの静かな力と恐ろしさを解らせる。今でも思い出せば鳥肌が泡立つ。

    緑の頭が思い出された。甲板で黙々トレーニングするシルエット。スリラーバークではただ一人あの絶大な力を間近で見、それを越えようとあの馬鹿はなにもかも忘れてただ相手を倒すことそれだけを願ったのだろう。あたしのことすらも置き去りにして。

    なによ。
    絶望三昧の思考の中、この件には急にムカついた。ムカついたなんてもんじゃない。何とかして八つ当たってやりたい。
    バカのくせになに考えてんの。
    風呂のときにはあの馬鹿に心底腹が立ってた。
    だってあたしが深夜に一人で行ったのなんてずっと放っておかれて寂しかったんだもん。ちょっとしたいたずら心もあったけど。でもこのあたしが浴場にまで誘いに行ったのに、魅惑の裸体を目の前にやっぱり気になるのは敵と自分を鍛えることばかり。もう知らないと、すねても追いかけてもこないし後は取り合わなかった。
    ケイミーと会ってシャボンディ島に入って、そんなことは一切なかったことにしてただの仲間のふりをしてた。ううんふりじゃない。解って無視してこっそり溜飲下げてた。
    その方が楽だった。ズルかったのはあたし。分かってるけど、だってゾロが悪いんだもん。


    でも今は一人。
    怒っても、泣いても。
    こんな風に会えなくなるのなら、あのとき意地を張るんじゃなかった。あたしのことなんていつでも手に入ってると安心してたことがしゃくに障るとか許せないことだなんて、今みたいに会えないことに比べたらずっと些細なことだった。
    あの時には無視することが大事だったかも、でもいつも思ってたのに。海賊になったら悔いの無いように生きるって。

    今は触れることもできない。声を聞くことも。遠くにその姿を眺めることすら、できない。
    あたしはやりたいことをやるために海賊になったのに、今は後悔ばかり。




    「娘さんや」
    「うっさいわ!」

    己の不幸を想像するだけでこの島が沈んでしまうのではないかと思ったその時だった。
    足元に蜜柑色の光が下の方から登ってきた。
    何?と思ったのもつかの間。下にあるはずの島雲の隙間をぬって更に柔らかい光が絡みつく。

    「娘さんや」
    うるさいおじさんを睨もうと面を上げるともう日が傾いて天頂の真青の空の色が崩れ始めていた。自分の足下からゆるゆる色が変わり始めてる。ちょっと不思議だと思った。夕焼けは太陽と空気のハーモニー。だから高度10000以上のここの夕焼けは地上では絶対見られない光景だ。

    『かこーーーーん』

    少しずつ広がる夕映えに感傷に浸るように動かなくなったあたしに向かってどこからか大きなバケツが飛んできて。ぼぅっとしてたら顔の横をかなりの速度で飛んでいった。
    確かめるのに振り返りその大きさに背筋に寒気が走る。なのに、飛ばした先の原因ど真ん中のおじいさんは謝るどころか小躍りして跳ねている。
    「なにすんのよ!!」
    「おお、すまん。先ほどの縄の改良版が成功したんじゃ。次はもっと大きな風を起こそうぞ。」
    「ブッソウなもん飛ばすんなら一言断りなさいよ!」

    気付くと、お腹から大きな声が出てた。
    いつもの船でアイツやルフィを怒鳴ってた時みたいに。

    ああ。

    こんな文句はくまの奴に言いたかった言葉だ。ずっとずっと空の中でずっと言いたかった台詞だ。
    そしてゾロの馬鹿にも言ってやりたかった。言って、判って貰いたかった事なんだ。
    言い切ると気持ちよかった。
    足下からの茜色の太陽がもう足全体も照らしてる。さっきの突風とは違う風が足下をくすぐってゆく。足元から感じ取られる気象現象はなんて分かりやすくて軽やかで。

    絡んだやさしい風を肌で感じる、それはいつものあたしの肌の感覚が戻ってきたみたい。ふとさっきの突風が、それはくまの技ににてると気がついて更にクスリと笑いが頬にこみ上げる。

    風が吹く。
    あたしのそばを風が吹く。アーロンパークが崩壊した時みたいな風が吹く。ロビンを迎えに行った時のようにも似た爽快な風が吹く。

    急に視界が開けた気がした。
    あの時みたいな風が吹き払ってくれたみたいにあたしは風も使える?もしかして、この技ならもっと強くすればくまにも対抗できる?
    空島の茜色の光は静かにあたしの顔面を照らし始めてる。

    くまはあいつが倒したがった男。いいえむしろ倒すと決めていた男。
    あたしはあんな化け物じゃないから同じ剣をとって戦うなんてことしないしできない、恐いから嫌。けどこれならあたしにも戦える。と言うよりあたししか戦えない。

    身体の中で心臓がどきどき言ってる。
    ドキドキは目の表にも裏にも広がってゆく。

    ああサニーの夕焼けと同じだ。船も島も全体に夕焼けの色に染まる。
    サニーの夕日の中、それは船を、海を、そして仲間を全て同じ色に染める夕映えだった。その中で一人黙々と汗を流し続ける男の姿が眼(まなこ)の裏に甦る。
    どくどくっっと更に心臓が高鳴る。
    一気にあたしの周りに船の風景が戻ってくる。
    奴らの声が聞こえるような暖かい空気が甦る。


    視界がぼやけてきた。
    ああ、あたし、ただ見ていたかったんじゃなくて、ちゃんと自分で戦いたかったんだ。何も言わなくてもアイツのこと分かっているとかそんな風に自分を閉じ込めるなんて全然あたしらしくない。置いて行かれるのがいやだったからって守りに入るなんてホントにバカみたい。
    勝手にどこかに行くだろう男ともっと対等に、それどころか追い抜いて先を走っていたい。あたしはか弱いんだから守ってもらうのは当たり前だけど、守られてばかりはイヤ。
    今なら、あたしも走れるから、強くなろうとする気持ちがあるから、だから心から頑張る仲間を応援できる。
    がんばって。くまなんかに負けないで。あんたはあたしの仲間で、誇りで、言ってはやらないけど一番深いところにいる人だから。
    そして無理だったらあたしが奴を倒してあげるからっていったらきっと悔しそうな馬鹿にした目つきをするのよ。それがたまらない。
    思いと体と心が同期していく。







    空島の夕焼けは遮るものなく足元から頭まで降り注ぐ。
    足下の島雲も皆一様に茜色に染まる。それを見ている瞳も身も肌も彼女の髪と同じように茜色に染まっている。
    同じ色に染まってもその光に溶けないしっかと空をにらんだ瞳は、微動だにしない。


    「娘さんや。そんなに夕焼けが珍しいかの?」
    「珍しいかと聞かれたら、そうね。群青の空と対の澄んだ空気の光芒のない夕焼けなんて地上では見られないでしょうね。」
    クスクスと笑いを含んだ声が初めてこの空島に響く。
    「けどいいわ、私もっと綺麗な夕焼けを知ってるから。」

    やや落ち着いた知的な瞳。空を射抜きそうな強さを中に隠し持っている。
    「帰りたいのかのぅ?」
    「心配要らないわ。帰るもの。」
    瞳の強さに負けないくらいに口元に落ち着いた力がみなぎっている。
    「必ず。私の後を追わせてやるんだから。」
    彼の腰にしまってあったはずのロープが彼女の手の中にあって少し慌てたが彼女はそれを徐に解き始めた。



    口元には自信の笑み。
    夕映えの中。澄んだ空気の中を通った均一な光を受けて立つ姿はこの国の女性気象師最強の称号「天候の魔女」の名に値する風を示し始めていた。


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