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    蜜柑狩 '13ナミ誕
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    空と海の狭間で-25

    2007ナミ誕 空と海の狭間で ] 2007/08/21(火)
    絶望の中。腹の底からくすぐるような良い匂いがした。
    姿を見せなかったサンジがトレイを手に現れた。
    「ほれ。お湯ならまだポットに熱かったからな。」
    ルフィに、ウソップに、そしてビビにと湯気の立ったカップを順に渡す。
    「ありがとう」
    「あちっ!」
    「うめーー!!」
    冷え切った気持ちも部屋も灯りがついたような気分に両手の中のココアはしてくれる。
    ビビは一口含んだ。 暖かい。
    「美味しい?」
    「うん・・・・・」
    ビビは無理に作った笑みを自嘲気味に曇らせる。
    「無理になら、いいんだよ?」
    こんな事態で何も出来なくて、女の子なら食べられない方が当たり前なのかもしれない。

    ビビは寂しい笑みを唇に乗せた。
    「違うの、本当に思ったのよ「美味しいな」って。そうして気がついちゃった。ナミさん達がこうなのに、私はこのココアを美味しいと思うし、サンジさんとも会話してる。ルフィさんの話を信じたふりの、自分が良かったらそれで良い本当はとても悪い子なんじゃないかって」
    「・・・ビビちゃんは悪くないよ」
    「そう言ってくれるって判ってるからサンジさんに相談してるし」
    手の中のココアの液面がゆらりと揺れている。震えると言うほどではなく、ただ揺れている。
    「体がダメになっちゃうくらいの気持ちをお友達の危機に持てないなんて。最低なただの子供。我が儘」
    サンジは黙っていた。で、ビビはサンジを見上げた。

    「サンジさんのは?」
    「俺はもうあっちで飲んできたから。」

    軽く笑ってサンジは飲めとビビに手真似をした。ビビはじっとサンジの目をのぞき込んだ。すっと正面に立つとカップは脇に置いて少し大きいサンジの口元に顔を寄せた。そよぐように寄せられたビビの身体にあっけにとられたサンジは身動きできなかった。
    「・・・・・・・・・・嘘。匂いがしない。」
    「・・え?」
    ビビはサンジの口元の匂いをかいだのだ。
    「ええ??」
    「ココアかお湯が足りないのなら私と半分こしましょ?美味しくて力になる、サンジさんが入れてくれたモノなんだから分け合わなきゃ駄目です」
    「イヤーービビちゃんありがとうね。けどお代わりならできるよ?」

    顔の真側に無意識に近づいたビビの顔にドキドキしながらサンジはうろたえ、ごまかした。だがビビの不安と相手をいたわる叱責を含んだ瞳は揺るがない。困り果てて後ろに下がるように顔だけは離してあきらめたようにサンジは微笑んだ。
    ちょっとこっちに来てと廊下に手招きする。
    あまり、ルフィ達には聞かせたくない。


    暗い一画でも慣れた目はサンジのくらい表情を捕まえる。
    「さっきの話・・心の辛さを体に背負わせる奴の方が弱いんじゃないかな?」
    「え?」
    「ビビちゃんは、自分が倒れちゃいけないって判ってるから体も頑張ってるだけだよ。反対に俺はダメだな」
    「そんなこと!」
    言ってみて気がついた。サンジはビビに言葉を挟ませまいと話し続ける。
    「俺はものを食べれない」
    「うん。この島に来てからもサンジさんほとんど食べてない。それじゃだめよ」
    サンジの目が大きく開いた。その顔をビビは真っ直ぐに見つめ続ける。サンジは面を伏せてビビの横に座り込んだ。
    「・・・・見てた?」
    「見てました」
    「俺、そんなにかっこいい?」
    煙に巻こうとしたサンジの言葉はビビには通用しない。
    もっと真っ直ぐに見返してくる。

    「ちゃんと食べない人のどこが格好いいの?」

    真摯な気持ちが少し潤んだ瞳がうっすら赤くなっていて判る。
    「・・・」
    「怒ってない。ただ心配なだけよ。うん。私が間違ってる。サンジさんが言う方がきっと正しい。私達はちゃんと食べて力にしないとダメなんだわ。 だからこれ、私と分けよ?」
    まだ湯気の立つカップを一口だけ口を付けてそれからぐいっとカップを前に押し出した。
    そんなビビを見てやれやれと肩をすくめる。そして人差し指を一本だけ立てた。
    「しーー。内緒だよ。俺本当に食べらんないの」
    「え?」
    「心の病気なんだって。原因もわかってないくせに医者ってのは偉そうだよな。拒食症ってやつの一種らしい」
    「え?」

    「俺、旨いって事が判らない。いや、作る側としてみんなが好きそうな味はわかるんだ。そっちはこれがまたギリギリのバランスまで取れる。俺は一流のコックになるんだから簡単なんだよ。
    けど、旨いって体験は味が解るって事とは違うんだ。

    俺はモノを喰って自分が旨いと思ったことがないんだよ」

    口の端の笑みはいつもの通りなのになぜだか瞳は寂しげだ。おじいさんが高名なコックさんなのに、それも美味しく食べられないという。

    心をいくら砕かれても美味いという感情が判らない。それなのに跡取りとしての期待を裏切ることとがどれだけ自分の心に重かったのか。軽い口調と厳しく仕込まれたマナー。客のために自分の心を装う。
    彼自身の価値はそんなところにはなかったのに子供に強いた生活は子供の成育を歪ませた。料理人にならないと自分の価値はない そう思いこんだ子供の末路など。それは静かにビビの心に伝わった。サンジは壁に背を預けて続ける。


    「医者の言うところによると舌に異常はねぇ、頭も大丈夫。だから心因性だとさ。ふざけんなってーの」
    「心因性?」
    「ご高名な医者によると心の病だそうだ。俺のチビん時の両親の愛がたりねーとか、チビの時からコックとして鍛えたのが虐待になったんだろうとか。確かに爺いん所に行ったきっかけはそうだったみたいだけど覚えてないしね。爺いん所で遊べと言われても全くピンと来ない。
    環境が変わっても変わらないから、逆に医者の奴は爺いん所の子供らしからぬ家庭環境がどうとか言いやがったんで顔のど真ん中に蹴りをくれてやった。ら、それはそれでまた爺に迷惑を掛けたみてぇだ」
    サンジの自慢のキックならそれはさぞ痛いだろう。

    「迷惑掛けたくなかったのね」
    「俺みたいなガキを引き受けて育てるって事は簡単じゃないって事は判る。なのに遊べ遊べと言うんだ。
    ま、そのぶん「穀潰し」だの「居候」だの言われ続けながら家の手伝いはさせて貰ってる。しないと俺が可笑しくなるんだよ」

    少年時代が存在していない と言うのがサンジに付けられた診断だ。
    躍起になって仕事を全て取りあげられたら今度は反対に鬱になった。
    何もする気にならない。
    子供の好きなテレビやゲームどころか食欲もない。学校はもともと嫌いだったしただぼんやり座り込んで一日が過ぎてゆく。
    誰の声も心には届かず、目にも映らない。貝のように押し黙って何も動かず過ぎてゆく日々に根負けして祖父は再び包丁を握らせてくれた。だがそれを握る力を取り戻すのも何ヶ月もかかった。学校は行かずに家にいて店の手伝いをするようになった。


    サンジの言葉からお爺さんへの思いが溢れてくる。そのおじいさんは厳しくて、温かい人なのだろうと思える。サンジはそのおじいさんが大好きなのだ。なのに。肝心の味が。

    「だから俺の料理『巧い』よ。けど俺自身は全然いらねーの。無理すると吐くこともあるしね。
     ま、俺の問題なだけだからビビちゃんにはきちんと飲んで欲しいよ。この味もちゃんと、『旨い』だろ?」

    カップの湯気の間からビビの両目から滴がぽとんと落ちた。これに比べたら、自分はなんて健康で、恵まれた家庭環境なんだろう。
    身体は元気だ。食べれなかったことなんて無い。パパもいる。テラコッタさん達もいる。それに・・半分だけど姉だっている。
    ナミさんのことを考えると今でも可笑しくなってしまいそう、なのに考えないで居ることだって出来るくらいの利己主義だ。

    「うわっ!ビビちゃん!泣かないで!俺、どうしよう?」
    ビビの鼻の頭がうっすら赤い。顔をきっと斜め上に向けてもう涙がこぼれないように唇を絞めた。
    「ビビちゃん?」
    サンジの顔をにらんで、それから一口、カップの中を飲み込んだ。
    甘くて。温かい。

    「美味しいわ!そうよ、これは美味しいの!
    サンジさん、美味しいモノは誰か他の人と半分にしないと駄目なの!独り占めは駄目なの!死んだ私のママはそう言ってた!」
    まるで小さな神様のよう。
    「持ってる物は分けっこが良いの。だから、はい!これは貴方の分よ!無理にでも飲むの!」

    目は真剣そのもので、腕をまっすぐ伸ばして差し出すビビにサンジは苦笑した。

    普通なら相手が誰でもやんわり断るか、嫌な相手なら一睨みで片付けてきた。だが彼女があまりに真剣だからだろうか。自分の話に同情されたとは不思議に思わない。まっすぐな娘。芯からまっすぐな故に曇りもなく嫌みもない。
    負けたというより勝てないと思った。と同時にその心が嬉しい。なんだか尻の辺りがもぞもぞする。サンジは頭をかいてビビの目から少し視線を逸らして手を伸ばした。

    「はい。貴方のおっしゃるままに」

    貰ったカップをゆっくり口の寄せてほんの少しだけ喉に流し込む。
    誰とはなく祈らずにはいられない。せめて。ほんの一口。ビビの思いの分だけでもいつもみたいに吐き出したりしませんように。

    カップから口を離して、サンジは口を閉じたままカップを下ろした。
    少し大きくなりかけている喉頭がごくんと上下に嚥下した。

    もう一度、黙ったままカップを両手に取った。手からもそのぬくもりを味わうように。
    そしてもう一口のためにカップを引き寄せた。

    ビビの目は大きく見開いていた。口に含んで嚥下したサンジはカップの中身から目を離すことができない。
    舌の上から喉の奥へ熱い液体が流れてきた。
    温度は判る。香りはココアのインスタントで薄いけど嚥下されたそれもそれはそれで結構臭いが残ってる。
    甘み。そして苦み。これはさっき落ちたビビの涙の味なのだろうか?



    「・・・・・・・・・・これなんだ?」


    サンジはぎゅっと両手にカップを抱えていた。
    もう一度口の中に残るココアを飲み下す。
    自分の中に入り込み、力になるような暖かさ。
    目が潤んでくる。

    「判る?」
    おそるおそるビビは聞いてくる。
    「初めて判った気がする。」
    「ほんとう?」

    ビビは涙を浮かべながらにっこり微笑んだ。
    サンジの両の視界も同じようにうるんでゆがんでいた。

    「よし、こんな旨いモンならある限り作ってやるよ」
    「手伝いましょうか?」
    「ううん、出来たら呼ぶから。ビビちゃんはあいつ等を見ててやってくれる?」
    「ええ」

    走っていくビビを見送ってサンジは床から立ち上がった。
    舌の上よりも心が感じてる。
    今も本当の味のうまさなのかはわからない。更には他の食べ物が同じように旨いと感じるかどうかなんてもっと判らない。
    それでもココアは温かく甘く吐き出すことなく喉を通った。簡単に治る訳なんてない。今だからたまたまそう感じただけかもしれない。
    けど、さっき飲んだあのココアの味だけは一生忘れないだろう。











    船の揺れは少し静かになってる。

    ウソップは一人そっと上に登った。
    明かりを落とした暗い操縦室の大きなわっかが影絵のように右へ、左へとゆっくり回ってる。
    船の揺れは止まったらしくその動きも今は落ち着いてる。それにそっと手をのせる。今は出航した時みたいにゆっくりと動いてるだけだ。

    辛い気持ちが少し減ってる。自分の思いを口にしたら誰も自分を責めなかった。絶対怒られると思っていたのに。
    それどころかルフィは信じてくれた。自分と同じ所にいてくれた。サンジもビビも。

    そうして気がついた。みんな自分が悪いと思ってて口に出せなかったんだ。そんな不安を出した自分が先に楽になってる。
    こんなの今までとは正反対だった。
    皆の気持ちを判る。
    今までにないことだ。判ってもらえないと思っていたが自分も他人を判ってなかった。

    一人じゃなくて皆といること・・漂流は恐いけど、もの凄く恐いんだけど!思っちゃいけないんだろうけど、こんな冒険も悪くない。



    ぎいいいいと輪は回ろうとする。
    輪越しに暗い海が見える。
    「?」
    その先に何か見えた気がした。
    ウソップは実は遠視の傾向がある。遠くはよく見る自信があった。ちらりと光った様に見えた物は徐々にはっきりしてくる。けぶる海の向こうに確かな光が見えた。光を背負った丸い影が見える。

    ウソップは慌てて壁に向かって走り出した。非常用の発煙筒の場所は自信があった。ぱちりと蓋を跳ね上げて全部のを取り出した。まず打ち上げ型の発光筒を掲げる。窓から外に向かって花火を上げるように打ち上げた。そして残りの持続型の筒を集めて一部を発火させる。一本を片手で窓の外から振り続ける。

    そして思い切り叫んだ。


    「船が見える!船が来たぞ!!」



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