蜜柑狩 '13ナミ誕
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    ☆星見 (ゾロナミ)

    2010ナミ誕 ] 2010/07/03(土)
    「グランドラインに入ってショックだったのはね、この私の航海術が一切通用しなかったって事なのよ。」

    カランと涼やかな音が夜空に響いた。ナミは嬉しそうにひんやりとしたグラスに刺してあったストローを唇で取り出して上下に振っていた。先に付いた雫が俺にも一つ二つ飛んできてた。だが肩に届いた頃には温度も気にならない。
    星を讃えた夜空にぬるい風。今の海域はぬるいまま安定しているから側にあるのは春島か季節が春な島なんじゃないかとさっきナミは言ってた。
    反対の手でつくった細い拳で人の額をグリグリと楽しげにこすってる。ここに来るなりグーグー寝てたあんたに解説したって無駄でしょうけどね と持ったグラスと咥えたままのストローのせいで借金を背負わせるときのようなニヤッとやや凶悪な笑顔になってるがそれでもなにより嬉しそうだ。
    「普通のコンパスは一切効かないし、地形によって変わるはずの風は所構わずいきなり吹くし。風がそうなら波も気まま。海流はあっても法則もないからいきなりログポースと反対に向かって流れてたりするし。そして何よりあせったのが星よ。」
    「星?」
    自分の声がけだるそうに答えてる。その声がこの体勢だと結構隠って洞窟の中のように響く。

    「グランドラインに入る前にはタカをくくってたのよね。だって、地図が無くたって、もしかしたらコンパスが効かなくたって、空は変わらないと思ってたもの。」
    「変わんねぇだろ?」
    「当たり前よ。同じ星から空を見上げてるのよ?空が変わるなんて誰が思う?」

    酒に酔った訳じゃない。だがこの暖かさにぼんやりした頭はあまり働いてない。
    眠ってる訳じゃない。ただナミの声が歌うみたいに聞こえてる。
    考えるとかそう言うことも面倒で、ただ上から響くこの声を聞いていたい。

    「んなこと思ったこともねぇ。」
    右なら右だし北なら北だ。で、星は星。それ以外の何者でもない。
    「あんたは特にねーーー」
    ナミはあはははとストローを咥えたまま笑ってる。
    「でも判ってきたわ。やっぱり海流の大まかな流れはログに従ってる。行く先と方向が違うから当てにならないの。けどログを外れると元に戻るのはかなり厄介なのよ。他のログにもたどり着けない。そうじゃなくてもルフィは決めた道から外れるの嫌みたいだし。」
    「ほーーー。」
    ルフィの名を聞いて柔らかい枕を少し触ってみると軽く身動ぎしかけてすぐに受け入れた。一瞬緊張してすぐ弛緩して、今は受け入れてる。表面もはするりと奥はくにゅっとどちらも柔らかい。
    「今は星の位置なんて大まかに廻った量が判るだけ。だから今この時期にこれなら多分もう少しで半周できるとはぼんやりわかるけどね。」
    ナミは空を見上げてる。大きな胸の向こうに真っ白な首筋のラインが、その上に星空に鮮やかに浮かんでいる。
    ナミはストローをグラスに戻し、そのグラスごと手を下ろした。その白い腕の動きが視界の端でもやっとした残像になる。その手にもゆっくり触れる。自分の意識もややまどろんでいる。妙な意識も欲もなくただ触れる事だけを繰り返す。

    「でも」
    白い両の手がゆっくりと俺の顎の線に添えられた。
    「海で星を見ることがただ楽しむ為だけになるなんて思わなかったなぁ。」

    歌うように弾んでいた声が少し落ち着いた色合いを帯びる。
    指がなぞる腿の柔らかさと頭の下の暖かい触感は捨てがたかったが、俺は上にむけて左手を伸ばした。

    「ナミ」
    「ん?」

    ナミの後頭部をそっと抑え軽く下に誘う。促した動きにナミは一切抵抗しない。ゆっくり引き下ろすと柔らかいナミの身体ごと頭が降りてくる。
    ぐっと顔が近付く。闇の中、からかうように目が金に光った。口元の微笑みは身体のように柔らかい。
    「空に星、下にあんた。こんなおまけも付いてくるしね」
    「黙ってろ」

    互いの視界は遮られて閉じた瞼の後ろに星がひかる。




    この船に乗るまで星は星でしかなかった。
    だが今は違ってしまった。
    星を見、星に見られて俺たちの日々は過ぎてゆく。


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